彼の有名な人斬り集団である“新選組”の一番組組長、沖田総司が子供好きというのは京の都でそれなりには有名な話である。土方はそれを聞いた瞬間「なんていう笑い話だ」と頭を抱えた。反対に、近藤はそれを聞いた瞬間に破顔した。
「いやぁ、総司が本当に心優しい子に育ってくれてよかった!京の治安を守るもの、お上の民を大事にすることは必要だ!」と。近藤がそんな調子だから、土方も総司が子供と遊ぶのは見逃していたのだけれど(もちろん、隊務があるのにすっぽかした場合は説教をしたのだが)子供好き、というのとはほんの少し違うような気がした今日この頃。 そもそも沖田が心やさしいとか、どんだけ近藤さんは目が節穴なんだろうと日ごろ沖田の振る舞いに頭を痛めている土方は思ったわけで。

「子供なんてさ、我儘で五月蠅くて可愛いのなんて一瞬だけなんだよねぇ」
どこか悟りきった言葉に、お前はどこの親父だと言いたくなったのは土方だけではあるまい。現に、斎藤はそんながらでもない沖田を見て酷く困惑したような光を浮かべた。
「いやぁ、だがやはり子供は可愛いと思うぞ!無邪気にはしゃいでいる様子を見ると昔の総司を思い出してなぁ」
瞳を細めて笑った近藤とは反対に、土方は米神を抑えた。昔から何だかんだと沖田に苦労させられてきた経験を持つからこそ出来れ ば昔の事を思い出したくなかった。はぁ、と深い溜息を吐いた土方に「どうした、トシ」と近 藤は心配そうな顔をする。そんな近藤に沖田は「わざわざ近藤さんが心配しなくても、土方さんなんて放ってお いても大丈夫ですよ」と笑う。大方、土方の考えていることがわかったのだろう。にんまりとした笑みを浮かべ ている沖田に土方は青筋を浮かべる。てめぇ、近藤さんの前だからって調子に乗りやがって。
「それにしても、何故総司は子供に好かれるのだろうな」
そんな様子を見ていた斎藤がぽつりと呟いた。
「コイツが餓鬼だからに決まってんだろ」
「あはは、誰かさんみたいに眉間に皺をよせて怖い顔をしていないからじゃないですか?」
「まぁ、けれど雪村君はトシに懐いているようだがなぁ」
近藤が何気なく言った言葉に土方は「は?」と口を開けた。懐かれている自覚などなかったからそれは尚更のことだ。鬼の副長と呼ばれる土方に懐くものなど皆無に等しい。むしろ、懐かれるのは近藤の役どころだ。それに千鶴が懐いているというのならば斎藤の方が懐いているだろう。よく斎藤と千鶴がともに談笑している姿を思い浮かべ、困惑している土方をよそに、沖田も頷いた。
「そういえば、千鶴ちゃんの口から一番最初に出る言葉は大体“斎藤さん”か“土方さん”だね」
ほんの少しだけ面白くないと思っているのか唇を尖らせた総司に「そんな顔をするくらいならばもう少し虐めるのをやめたらどうだ」と斎藤が溜息を吐く。それはやだ、とか、だから逃げられるんだ、とか言い合っている沖田と斎藤になんでこいつらは成長しないんだろうと土方は再び溜息を吐いた。
「……。そもそも、懐くとか懐かねぇだとかが違ぇんだろ。アイツは動物じゃねぇんだ」

この話題はおしまい、と言わんばかりにそう言い切って土方は立ちあがった。どこへいくの、と呑気にそう言った沖田に「仕事に決まってるだろ、お前と違って俺は忙しいんだ」と返して部屋へと立ち上がった。千鶴が自分に懐いている、と聞いてほんの少しだけ動揺したなんて。そんなこと。





(例えそうだとしても、それがどうした)
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