「千鶴ちゃん」
洗濯を干し終わったのを見計らって、いつの間にか傍に立っていた沖田さんに声をかけられた。すぐそばに人がいるとは思っていなかったために声をかけられ、体が跳ねる。
「何、その反応。失礼じゃない?」
「お、おきたさ…」
自分から驚かせるような状況を作りだしたくせに沖田さんはそういってむっとしたような顔を作ってみせた(けれども声が笑っているので台無しだ)
「あの、何か御用ですか?」
「あぁ、うん。あのね、お土産を買ってきたんだ」
はい、と手渡されて目を瞬く。質量的に何かお菓子でもなさそうだ。開けてもいいですか、と訪ねれば「うん」と酷く楽しそうな顔をして沖田さんは頷いた。そこまで楽しそうな顔をされると何だか嫌な予感がする。というか彼が満面の笑みを浮かべる時は大抵私にとってはあまり良くないことが多い。悪戯か何かだろうか。それとも、何かの嫌がらせ?おそるおそる包をひらいてみると出てきたのは装飾の入った綺麗な櫛だった。……何で、櫛?今、私は女という事を隠すために男装していて、櫛なんてあんまりつかう機会なんてないのに。
「あの、これ」
「いつか、女の子の格好が出来る時になったら使ってよ」
笑いながら言われた言葉に、戸惑う。私の手元に今あるのは、気軽に貰ってもいいような値段ではないような気がする。
「でも、これ。とてもいいモノですよね?そんな理由もなく貰えないです」
「君が貰わないなら捨てちゃうよ。あげる人なんかいないし」
沖田さんにならば本当に捨ててしまいそうだ。それなら、貰っておいた方がよいのかもしれない。
「……ありがとうございます」
御礼を言うと、沖田さんは「どういたしまして」と目を細めると思い出したようにはなし始めた。
「そういえばこのまえなんだけどね。平助が君に櫛をあげようとしていたんだけれど、佐之さんが“女に櫛を贈る意味”を知っているのかって、女の人に櫛をあげる意味を教えてもらったんだ」
だから平助が持っていたのを思わず踏んづけて壊しちゃったよ、と笑いながら言ったのを聞いて思わず平助くんに同情した。というか櫛をあげるのに、何か意味が必要なのだろうか。……私は貴方が嫌いです、とか?
「それにしても、君に受け取ってもらえてよかった」
「……あの、沖田さん」
「うん?」
「櫛をあげる意味っていうのは、何なんですか?」
私の言葉に沖田さんは口端をあげて、にっこりと微笑んで見せた。
「あれ、知らなかったの?」
わざとらしく、そう言うと沖田さんは言葉をつづけた。
曰く、櫛をあげるっていうのはね、結婚を申し込むのと同じ意味なんだよ、と。
思わずぽかんと唇を開けた私に、





大事にしてね、そう言って彼は笑った
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