俺が生きている間、荷物は増え続けるばっかりじゃねぇか。そう俺が言った時、千鶴は「私にも背負わせてください」と懇願した。その時、彼女の小さなその身体で支えきれるだろうかと思ったのを覚えている。ただでさえ、千鶴は普通の女が持つには重過ぎるものを抱えているのに。

ひじかたさん、そう言って柔らかく笑った千鶴が可愛くて、俺は思わず頬を緩めた。彼女の好ましい所をあげればキリがないあたり、自分は彼女に“捕まっている”のだと苦笑した。そもそもの話、彼女さえいなければ自分が生きているなんてことになるわけがない。戦が終わり、新選組の副長である“土方歳三”は死に、今ここにいるのはただの一人の男となった。時折、それが赦されるのか、とも思った事はあるがわざわざ死にたいとも思わない。 それに、ほんの少し遠周りをしたからといって どうせ、羅刹となった躯ではどれ程の時間が過ごせるかもわからないのだ。それならば、その少しの時間を彼女のために使ってもいいだろう、そう思ったのだ。 彼女には、苦労ばかりをかけたし、なによりもそうしなければきっと彼女の背中には大きな荷物が残ったままになってしまう。それは、とても耐えがたく辛くて……寂しい、ことだとも思うから。 それに、このまま彼女を置いていけば先に逝った近藤や斎藤、総司になにを言われるかわかったもんじゃない。何だかんだ、皆して彼女のことを想っていたのだから。

だからこそ、自分は考えなければいけない。自分が居なくなった後、彼女がどうするかという事を。普通の女として、どうやったら幸せになれるかを。この家は、二人で過ごすにはいいが一人だと寂しすぎるだろう。彼女がここで一人きりで生活するのを想像するだけで、胸を掻き毟りたくなる。誰かに千鶴を任せることが出来れば、一番それがいい。彼女は、守られるべき女だ。本来ならば、俺のように血塗れになった手ではなく、剣を握って肉刺だらけになった手ではなくて。
いつの間にか、うとうとと微睡んでいたらしい。千鶴の気配がした後に、ふわりと羽織を掛けられたのを感じて目を覚ました。起こしてしまってすいません、そういって肩を竦めた彼女を見て苦笑する。
「千鶴」
「はい?」
なんですか、土方さん。そう言って、俺の顔を見つめた千鶴は、きっと俺がこんな事を考えているのだと知れば、怒るのだろう。何を言うべきか、それを迷った後に結局違うことを言ってしまうのは男の意地とかいうものなのだろう。
「――――――茶が、飲みたい」
それを聞いて、ぱっと喜色を浮かべて「今すぐに」とそう言った千鶴は台所へ行ってしまう。その背は、やはり小さい。俺が死んだら千鶴は迷わず俺の抱えていた荷物は全部持とうとするだろう。そんなことをすれば、きっと彼女は潰れてしまうのに。それがわかっているから、どうか、引きずらないで欲しいと思う。俺のように、重荷を背負わないでいて欲しい。重荷、なんてそもそも感じる必要がないのだ。



全部全部、俺が持っていってやるから。だから、おまえは、





笑っていてくれ
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