いつからだろう。いつから、こんな風になってしまったのだろう。昏々と眠り続ける少女を見ながら、土方は己の不甲斐なさを責める。いつから、彼女はこんなにも土方を騙す事が上手くなってしまったのだろうと。笑って、自分は大丈夫だと。その言葉を信じてしまったのは、自分。彼女が無理していることには気がついていたのに、それだというのに何も気遣うことができなかった。彼女が土方の前で倒れてしまうまで、気がつかなかった。その事実は情けなくて、そうして憤りを感じた。なんて、己は無力なのであろうと。けれど、大丈夫です、と彼女が綺麗に笑うから。けれど、そんなことは言い訳にはなるまい。無理をさせた原因を作ったのは、誰でもない土方なのだから。そもそも、彼女は一般市民なのだ。無理していないという方が可笑しいのに。 眠り続ける少女は、土方の目から見てもほんの少し痩せたような気がする。この状況が状況なのだから、弱音は吐けないのはわかっている。けれど彼女は一般市民なのだ。土方達のように新選組でも幕府派でもなんでもない。彼女は、普通の女として幸せに暮らしていけることができるはずなのに。それを奪ったのは、新選組だ。 「何が“士道不覚悟は切腹”だ。笑っちまうな」 千鶴の髪を梳きながら、苦笑する。本来ならば、彼女はもうこちらに留めておく理由なんてない。それなのに新選組が…土方が彼女をここに留めておくのは身勝手な理由だ。もっと早くに手を、離してやらなければいけなかった。ほんのすこし青白い顔色を見て、土方は唇を噛んだ。新選組は今や落ち目だ。彼女がこのままついてきても良いことなんてひとつもない。それならば、出来るだけ早くに自分は彼女が幸せになる方法を探さなければいけなかった。 まっすぐな、偽りを知らぬような目で土方に「役に立ちたい」のだとそう言った千鶴を思い出す。いつだって彼女はまっすぐで、綺麗で。そんな彼女が血まみれた手を持つ土方の元にいるだなんて方が可笑しい。彼女にはもっと良い男が居るのだから。 いまからでも、おそくはない。 ただ滅びだとわかっている道を歩むことしかできない男の傍に居るよりも、彼女の幸せを考えてくれる男の傍を選んだほうがいい。今さら、これと決めた自分の道を曲げることができないのならば、彼女にとっては自分勝手な男と思われたほうがいい。一人で死んでいく男を罵って、貶して、そうして幸せになってくれれば。鬼は鬼らしく、一人で逝くべきで、誰かの手を求めるだなんてあってはならない。それが惚れた女の手ならば余計に。 |