血を分けるように、命を半分わけることが出来ればどんなにいいだろうか。自分のせいで、何人もの人も犠牲になってしまったのだからそれくらい出来ればいいのに。井上さんや山崎さん、土方さんは羅刹になってしまった。よくよく考えると私が居ることで、いくつもの災いが舞い込んでくるような気がする。そう考えると、私は紛れもない“鬼”なのかもしれない。災いを引き起こし、安穏を妨げるもの。けれど、私は、それがわかっていてもこの人の傍に居たいと思っている。
千鶴、
そういって、私の名前を呼んでくれる限り。傍に居て出来るだけ役に立ちたいと思っている。その両腕は、いつも荷物でいっぱいだから、その荷物を持つ手伝いが出来ればそれでいい、そう思っている。
「……千鶴?」
書類と睨めっこをしていた土方さんがふいにこちらを向いて、眉を寄せた。何か問題があったのだろうか。何事かと腰を浮かして「どうかしましたか」と問いかければ土方さんは何かを言いかけるように口を開き、押し黙った。もしかしたら、一人になりたいのかもしれない。
「お茶でもいれてきましょうか」
そういった私に土方さんは黙ったまま、じっと私の顔を見る。見たって、たいして面白くもなんともないだろうに。
「千鶴、ちょっとこっちにこい」
言われるがまま、土方さんに近付くと土方さんは徐に私の頬を両手で挟み込んだ。そうして、じっと顔を覗き込む。
「お前、先刻なにを考えていたんだ」
「なにって」
「お前の事だから、またくだらねぇ事で悩んでんじゃねぇだろうな」
「くだらない」
私にとっては重要な問題なのにそれを“くだらない”と一蹴されるとは。少しくらい怒ってもいいのではないだろうか、思わず唇を噛んだ私を見て土方さんは苦笑した。
「怒るなよ、可愛い顔が台無しだ」
「………土方さんの意地悪」
昔の彼ならば絶対言わないような言葉に一瞬あっけにとられ、すぐに揶揄された ことに気がついて千鶴は膨れた。千鶴の言葉に土方は「男にとっての意地悪は褒め言葉なんだよ」と笑った。そうしてさり気無い様子で「それで?何を考えてたんだよ」と聞いてくる。それに素直に返答しようとして、押し黙る。こんなこと、言ったら「馬鹿なことを考えてるんじゃねぇよ」と返されるだけだ。それに、もしかしたら悲しませてしまうかもしれない。迷った末に、千鶴はそっと目を伏せた。
「土方さんがあんまりにも休憩をとってくれないから」
「嘘、だな」
「何で、そんなことがわかるんですか」
「嘘を吐くのが下手糞なんだよ、お前は」
諦めろ、そういって笑って私の頭を撫でるその人に泣きたくなる。優しくしない欲しい、そう言ったのならばこの人はどう思うのだろう。いくつもの屍の上に私は立っている。本来ならば、私は土方さんに守られる立場じゃない。むしろ、土方さんに殺されても可笑しくないのだ。それがわかっているのに、自分に差し出せる手を拒めないのは私の心が弱いから。
もし、言ってしまえばきっと「馬鹿言ってんじゃねぇ」と怒ってくれるかもしれない。そうしてくればいいけれど、それは、私の甘えだから、だから、絶対に土方さんにだけは言わないのだろう。




(嗚呼、自分の汚さに反吐が出る)
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