カリカリと音を立てているシャープペンシル、その音が聞こえる長さと紙に描かれる文字は比例している。美麗、としかいいようのない文字を眺めながら千鶴はそのシャープペンシルを操る人物へとそっと視線をむける。いつもとは違って、メガネをかけている彼に千鶴は珍しさを感じる。
「どうした?」
「え」
「何か気になることでもあったか?」
その言葉に「なんでもありません」と千鶴は慌てて首を振った。けれど、どうやら斎藤はその返答はあまりお気に召さなかったらしい。難しげな表情を浮かべて、そうして首を傾げ、ノートへと視線を下げる。
「何か、間違いがあったか」
ひとつひとつ指で確認していく彼に申し訳なくなって千鶴は「その、メガネが」と白状する羽目になる。
「眼鏡?……これが、どうかしたのか」
「あの、その…えぇと、珍しいなって。先輩、目が悪かったですっけ?」
「日常生活で支障を感じるほどではないが、少し」
「そうなんですか。でも日常生活で支障がないくらいならどうしてわざわざ眼鏡なんか」
と首を傾げた千鶴に斎藤は笑んだ。
「お前の顔をはっきり見たいからに決まっているだろう」
その台詞に、顔が赤くなるのを感じて千鶴は慌てて顔を伏せた。放課後のチャイムが音を立てて鳴っても、千鶴は顔をあげることが出来なかった。







同じ春を踏む
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