「………は?」
新選組三番隊隊長である斎藤一は、先程聞こえた言葉に茫然とした。っていうかお前ら何やってんだよ、と言わないのはきっと部屋の奥でにやにやと笑っている沖田が見えるからだ。きっと全ての原因はアイツ。それしか考えられない。いいかげんにあの男は制裁をくわえるべきだと斎藤は思う。というか、そもそもの話、どうしてこの三馬鹿は飽きることなく沖田に遊ばれてばかりいるのだろうかといいたいわけで。
「だぁかあらぁ!」
酔っぱらっているのか馬鹿なのかそれとも全てなのか、大変に羞態を晒しているこれでも二番隊の隊長である永倉新八は酒のせいで真っ赤になった顔で叫んだ。言葉が言葉になっていないような気がするのはきっと地面に転がっている酒瓶からみても気のせいじゃない。
「俺としては、やっぱり胸は大きさっていうか!ぼんっきゅっぼん!が理想なわけだよ、斎藤クン。わかるか、これぞ漢の浪漫っていうか!なんだよ、平助。文句ありそうな顔しやがって」
ぐっと腕の関節で永倉が平助の首を締めれば「ちょ、やめろよ、新八っさん!」と平助は暴れる。腕から逃れ、そうして平助はぜいはあと大きく肩で息をした。
「別に悪いとはいってねえよ!……ただ、その」
顔を赤く染め、平助はそっぽを向く。その頬がどうにも林檎のように赤くなっているのは隠せていないため、斎藤は照れてるんだなと理解した。
「必ずしも大きい、必要はないと思う」
「なーに言ってんだ!大きさは命だろ!?こうさ、母性本能の大きさをあらわす感じがしねえ?なあ、佐之?」
「そうかあ?俺は大きさよりも感度の方が重要だと思うが」
猪口に口をつけながら平然とした様子で返す原田に永倉は「これだからモてる男は!畜生!」と言いながら酒を煽る。
「だってそうだろう?別にでかいのは嫌いじゃねえが、でかすぎても持てあますんじゃねえか、お前は」
くつくつと笑う佐之に「モテる男になんか俺の気持ちはわかんねえよ!」と永倉は舌を出した。
「何で佐之は女が寄ってくるんだろうなあ、この俺様だって結構なイイ男だと思うんだが。顔か?やっぱり男は顔なのか?」
顔とかではなく中身の問題だと思ったのは斎藤だけはあるまい。現にモテるかモテないかという問題において、沖田は顔は整っている癖に中身がとんでもなくぶっとんでいるせいで あまりきゃいきゃいと騒がれない。多分、騒がれたら騒がれたで笑顔で「鬱陶しいなあ、斬るよ?」とでもいいそうだ。
「……あんたがモテないのは、その酒癖の悪さのせいだろう」
洩れた言葉は幸いというか不幸にもというか永倉の耳には入らなかったらしい。別段、聞かれても斎藤はなんらこまることはなかったが
「ぁん?何か言ったか、斎藤?」
「いいや、別段面白い事は何も言っていない。……では、俺は部屋に戻る」
「あれ、今日明日、非番でしょう、一君」
部屋へと戻るために襖に手を掛けた斎藤を引き留めたのは沖田だ。思わず立ち止り、振り返った所で斎藤は眉を寄せる。沖田が酷く楽しげな笑みを浮かべていたからだ。
「一君、どっちが好き?」
「何の事だ」
「決まっているでしょう?胸の話。大きい方が好き?それとも小さい方?それとも、佐之さんみたいに感度が良い方がいいのかな」
「……馬鹿馬鹿しい」
「あれ、逃げるの?敵前逃亡は切腹、だよ?」
くすくすと笑いながら宣う沖田に斎藤は深々と溜息をついた。
「そうではない。そういうのは、好いた者であれば……なんだって構わないだろう」
「え、それって何でもイケるってことか?うわ、斎藤、お前すげえな!」
永倉の茶々に斎藤は眉間に皺を寄せる。これだから酔っ払いは。
「あはは、……一君の助平」
ぽつりと呟かれた沖田の言葉に「お前それが言いたかっただけだろう!」と腰にあった刃に斎藤が手をかけたのは言うまでもない。




おー・ぱにっく
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