土方の携帯電話に「嘘吐き」というメールが入っていた。初めこそ、沖田の悪戯だろうかとも思ったがその送信者欄に書かれているのは“雪村千鶴”だ。土方の恋人で、可愛い生徒。
「……」
確かに今日、約束をしていた。けれどそれは、午後5時の約束であって腕時計で確認するにまだ5時になるまで1時間は猶予がある。ふ、と再び携帯を見てそこに表示されている時間に驚いた。
18:00
「は?」
嘘だろ、と己の腕時計をみればやはり4時を指している。どういうことだ、と脳裏に様々な情報が駆け巡りひとつの情報を思い出す。昼休み、土方の机には時計、そうして職員室に沖田が居た。なにやらにやにやと笑いながら「今日ってデートなんですよね?」なんて確認していたのはこれだったのか!と土方は焦る。必要最低限なものを持って、土方は走った。

居る筈がないと思いながらも急いで向かった待ち合わせ場所には千鶴が居た。
「あ、土方先生」
「千鶴、悪い、遅れた」
「珍しいですね。別に急がなくても良かったんですよ」
「その割にはメールが送られてきたが」
「え、メール?……。さっき、沖田先輩が携帯を貸してくれって言ってましたけれど何を送ったんでしょうか」
そういって慌てて確認した千鶴は「……私じゃないですからね」と頬をふくらませた。どうやら初めの通り、沖田の悪戯だったらしい。けれど、そのメールがなければ遅れていることに気がつかなかったのだから沖田の良心だったのかもしれない。
「寒かったろう?」
「いいえ。先程までみなさんが居ましたから」
「みなさん?」
「斎藤さんに、沖田さん、あとは原田先生と平助君…わ!」
指折り数えている千鶴にほんの少しだけ嫉妬して、土方は千鶴を抱き寄せた。自分が待たせたくせに嫉妬する、だなんてどこのガキだ、なんて内心で苦笑して。抱きよせた千鶴の体は思ったよりも冷たくていくら沖田のせいだとしても土方は申し訳なくなる。もっと攻められれば少しは気持ちが軽くなるのに、けれども千鶴は何も言わない。
視線を下におろせば、見たことがない髪飾りが目に入る。
「それ」
「はい、なんですか?」
「新しいヤツか」
千鶴の髪に結ばれている髪飾りをさせば納得したように「ああ、シュシュですね」と頷いた。
「そうです、新しいものですよ」
新しいシュシュって着けるのを躊躇うんですよね。なんだか勿体無いような気がして。だから、大事な日につけるんです。そういって今日は先生と会えるから特別な日なのだとなんでもないようなことで笑った千鶴に、土方は彼女を抱き締める腕の力を強めた。




ひっくり返って泣いてた時計
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