時折、彼女は神様かなんかじゃないのかと思うことがある。そんなことは有り得ないとは思いながらも彼女のまっすぐさとか、穢れなさだとかそんなのと相対していると段々、手を出してはいけないものに手を出してしまったような罪悪感だとかそういったものにさいなまれることが多々ある。箱館政府においても、彼女の存在は皆の救いとなっていたのだ。そう考えてしまえば、神様という表現もあながちはずれていないような気がする。 さて、何故いきなりこんな話をしだしたのかといえば、最近、神やらなんやらが新しく入ってきているそうだ。より外国のものを取り入れた結果らしい。だが、そういった宗教が流行る、というのは土方にとっては不思議でしかなかった。 一言でいえば、よくわからぬ、そもそも神というものに祈ったからといって現状が打開するわけでもなし、そうだというのならばくだらぬものに時間を割くよりもも先に、解決するために動いた方が双方に利点は大きいはずである。そう考えるのは、無宗教論者故の傲慢というものなのかもしれないが。 まあけれど、地獄か天国か、己が行くのがどちらかと問われたのならば寸分迷わずに「地獄だろうな」と答える。自分のやっていることを顧みればそれはごく普通の回答。面白くもなんともないから逆に申し訳なくなるくらいだ。 「おい、千鶴」 「はい?」 「お前、神を信じるか」 「…神様、ですか?」 首を傾げて首を傾げた千鶴に土方は頷く。 「そうですね。神社にお参りにはいきますねえ」 そういってのほほんと笑った妻に土方はそれは答えになってねえだろうと思った。そういえば今年の冬は近所にあった神社に行ったっけなど思った土方も大概なのだろうが。 「いきなりどうかしたのですか?」 「いいや、なんとなく気になっただけだよ。……おい、てめえ何を笑ってやがる」 「ふふ、土方さんでも神様を信じるんだと思ったらほんの少しだけ面白くなってしまって」 「そうか?」 まあ、最も土方は千鶴のいうように神様なんてものは信じちゃいないのだけれど。 「土方さんは自分でなんでもこなしてしまう方ですから」 「……別になんでもこなせるわけじゃねえよ」 「それでも。何かに頼るということはなさらないでしょう?」 ほんの少しだけ寂しそうな顔をして微笑んだ千鶴に土方は溜息を吐いた。 この女はどうやら、わかっていないらしい。どんなに土方が千鶴という存在に支えられているかということを。まあもっとも、千鶴がそう≠セから土方も安心して寄りかかることができるのかもしれないのだけれど。 ふいに外をみれば、青い空が広がっている。 「おい、千鶴」 たまには散歩でもするかと思いつきを口にすれば千鶴は嬉しそうな顔をして頷いた。立ち上がり、彼女の手を取る。そこで土方はふいに気がついた。もしも彼女が神様だったら、手をとって歩くなんていうことは出来ないということを。 なれば、彼女は神様じゃなくてよかったと一人笑えば「土方さん?」怪訝そうな顔。きょとんとした顔をした妻の額を指で軽く弾いて土方は小さくも温かい手を握りしめた。 神様じゃない存在証明 神様でないなら、彼女が土方と同じ人間だというのならば、土方が手を離す理由もないだろう |