私の願いが偽善と呼ばれるものだとしても



ゆきのことを「愛しい子」と躊躇いなくそう呼ぶ人に、初め、ほんの少し戸惑った。それに馴れてしまえば、次は疑問が沸き起こった。ゆきは、天海に何かをしたような記憶はないというのに、どうして天海はこんなにもよくしてくれるのだろう、と。ずっとわからなかった疑問は、けれども、ほんの些細なことで知れることとなる。時空跳躍、その瞬間、時空の狭間という場所で、天海と出会ったのだ。天海にとっては、これが最初の邂逅。そうしてゆきの、罪の場所。天海に助けを求め、そうして天海がそれに応えたせいで、天海は千年の呪縛をうけることになった。
その事実を知った時、くらりと世界が歪むような目眩が、ゆきを襲った。何故、天海に手を伸ばしたのかが理解が出来ぬ。そうして、同時に、ゆきは知る。この世界、あの時代にゆきを引きこんだのは、きっと天海なのだろう。ゆきが呪詛を受けるのを防ぐため、ただそれだけのために、天海はきっと、ゆきをあの時代へと引き寄せた。けれど、益々、わからない。何故、天海がゆきのことを助けたのか、挙句、どうして親切にしてくれるのか。初めは自分の力が利用できるから、だと思っていた。けれど、道を違えた今、天海は「愛しい子」とゆきをそう呼ぶことを止めはしない。それどころか、命の危機に瀕した時にまっさきに現れ、そうして躊躇いなくゆきに手を指し伸べるのだ。いつの間にかゆきは、天海のことを知りたい、と思うようになった。何故、どうして。いくつもの疑問を問いかけて、そうして、出来ること、なら。

天海を、助けたい、ゆきがそう言った時、天海は不思議そうな顔をした。そうして時空の狭間で見たことを口にすれば「忘れてしまいなさい」と目を細めてそういった。
「私のために出来ること、をしたいのならば、貴方の身を私に捧げなさい」
「そ、れは」
「私のために何かをしたいんでしょう?仲間を捨てて、使命をすてて、全てを捨てて私のもとにいらっしゃい」
けれど、それでは、駄目なのだ。それでもし、全てが上手くいくのならばきっとゆきは命を放り出せる。大切な人が全て掬えるならば、それでいいと思う。けれど、駄目だ。それじゃあきっと、天海は本当の意味では救われない、そう、思うから。
ふとアーネストの言った「偽善者」という言葉を思い出した。きっとこれは、アーネスト曰くそういった種類のものだろう。全てを救いたい、だなんてそんなことは出来るはずがないと、ゆきもわかっている。けれど、足掻くと決めたのならば、最期まで足掻いて見せる。ゆきは顔をあげ、そうして天海を見据えた。そうして、己の決意を口にするために、唇を開いた。







inserted by FC2 system