綺麗のようでいて歪んだ純情(ED後)



真っ白なものほど、染まりやすいと天海が知ったのは外の世界を知ってから。白、純白、いわゆるそう人間たちがいうものは、けれどもすぐに汚れてしまう。例えば、雪。ひらりひらりと空を舞う純白の美しくも冷たい花弁たちは外へと積もればあとは汚れるばかり。人に踏まれ、踏まれ、そうして無惨にも灰色となり、いつしか人にすらも見向きもされなくなっていく。それを見て、なんと憐れなことでしょう、と天海はそう思った。今はもう、遠い記憶だけれど。そうして、己の焦がれている光もこのように汚れてしまうのだろうかと心配になったのを覚えている。彼女は、白だ。強烈なまでにも美しく、けれども輝き、人に夢をみせるばかりの、白龍の愛するべき、神子。

「天海?」
ふいに、小さな手が視界に映る。その手の持ち主は、ひらひらと手を振り天海の意識がこちらにあるかどうかを確かめる。
「どうかしましたか、愛しい子」
「それはこっちの台詞。どうしたの、ぼんやりして……疲れている?」
「いいえ、少し、雪をみていたら昔を思い出しただけですよ」
「そうなの?」
ゆきは首を傾げる。その幼い仕草に、天海は目を細めた。
「白という色は、君に似ているなと思っていたのです」
「……私?」
「えぇ、穢れなき色、でしょう。だから、昔は少し心配していたのです。穢れない色は、けれども穢れやすい。そうして、その汚れも目立ちやすいものですから」
「昔は、っていうことは今は違うということなの?」
「えぇ、今は白という色は強いなあと」
「…強い?」
「だって、どんな色だって自分色に染めてしまうでしょう?」
「そう、かなあ」
例えば、青を水色に、赤を桃色、緑を薄緑。どんな色も、相手の個性を残しながら、君は君色に染めて行く。それが強いといわず、なんだろうと、そう思うようになった。ゆきは不思議そうに首を傾げている。それを見て天海は「君はわからなくても仕様がないですよ」と笑った。これは、染められたものしかわからぬ気持ちなのだから。

強烈な白は、どの色すらも薄める。そう、例えそれが、天海の中にある黒だとしても。


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