愛しさでしねたならそれはきっと至福 逢い それは運命、どうしたって避けられぬ、避けることなど考えつかないほどに絡み合って、そうして巡りゆく 合い それは触れる、そうして重ねる掌のように。温かな手と、そうしてその温度の優しさに涙を流す 藍 それは涙。悲しみに彩ったその色は海の青よりも深く、激しい。 ――――――どうしたって、解り逢えることなどないことなんて、わかっていたというのに。 天海が闇であるというのならば、天海の愛した少女は光に属するのだ。そうして、天海が陰であるというのならば彼女は陽であった。進むのが少女の役割だとしたのならば、立ち止り続けることこそが天海の役割だった。はじめから、おわりまで、わかりあうことなど出来ようもない。そうだというのに、どうしたって天海は彼女を求めるのだ。 「天海、どうして」 悲しげな色を宿した双眸が、天海をみやる。 「何故、そんなに悲しそうな顔をするのですか、神子。いいではありませんか、世界には私とキミ、それだけで十分。そうは思いませんか?」 世界に他の人間などいらぬ、だから滅ぼしてしまおう。その考えは決しておかしくないはずで、むしろ正しいものなはずだ。この世界は、歪みきっている。歪みに歪んだ世界はもう、元に戻すことは出来なくて、それならば一端、壊すしかないのだ。そう、説明しているというのに目の前の少女の顔はけっして晴れることはない。 ただ、彼女は黙って、何か言いたげにして、悲しそうな顔で天海を見ている。あぁ、わからない。天海は、心の中で嘆息した。どんなにも愛しくおもったとしても、彼女の考えることは、わからない……。 「私のものになってしまえば、キミがそんな顔をすることもなくなるのに」 「天海、違うの、私が言いたいのは」 言いかけて、彼女は黙った。そうして、目を瞑る。 「愛しい子、解りあえぬことなど初めから私は知っていたのですよ」 「天海?」 掌をもちあげれば、絡まった鎖が音を立てる。金属の擦れる特有の音は、天海が呪縛されている証。けれど、けして動けぬわけではない。天海はそのまま彼女へと近づき、顔を寄せた。 「愛しい子」 吐息が重なり合うくらいに近付いたそれは、けれども決して触れ合うことなど出来ぬのを天海は知っている。ふと自嘲からくる笑いにより、瞳が細まる。もしも触れてしまったのならば、それは天海の終焉を意味するのだ。こんなやすやすとは近付けないだろう。けれど、もし、今、天海がここに実体を持っていたとしても、天海は彼女に近づかずにはいられないだろうけれど。どうしたって、この少女は天海を引き寄せる。 「相容れぬことなど、はじめからわかっておりましたとも」 それは、夏の飛虫のように。闇に馴れきり、闇に飼われ続けた虫は光に憧れ、夏の炎に焦がれ、惹かれ続ける。 ――――たとえ身を滅ぼしたとしても、それは抗い得ぬ本能。 まさしく、その身をかけて、愛を示す。食うか、食われるか。どちらかしかない選択肢であるのならば、天海が選ぶのは、どちらだろう? 愛 それは夏の灯。相手のことを考えることなど忘れ、ただ、相手を得るためだけに、私欲のままに動いた故にわが身を滅ぼす。 ―――――――そうだとしても、想いを止められぬのが世の道理。 |