2度目のエンドロール(ED後)



世界を敵に回しても、貴方の味方で居るわ、なんて。
そんなことを言えればよかったのかもしれない。天海の隣で、ぼんやりと海外の恋愛映画を見ながらゆきは思った。
放課後、なんとなく目にとまったレンタルショップでビデオを借りて天海の部屋へと立ち寄った。 借りたのは友達がお薦めしていた海外の恋愛映画だとか、コメディだとかを2、3本。本来であれば家で見ようと思っていたソレを目敏く天海がみつけて、そうして興味を示したから一緒に見ようということになった。

そうして、リビングルームに静かにオープニングが流れはじめる。アカデミー賞受賞だとか辛口なことしか言わない友人が薦めてくるだけあって、その映画にすぐに引き込まれた。内容はベタといえば、ベタだ。なんと説明すれば、しっくりくるだろうか。……そう、いうのであれば現代版のロミオとジュリエットといったところだろうか。敵同士となり、戦わなければいけない、けれども惹かれあう二人…。純粋に、映画へとのめり込んでいたゆきは、ある台詞で我に返った。
「世界の人全てを敵にまわしても、私は貴方だけの味方で居るわ」
ヒロインの台詞だ。
真っ直ぐに恋人へとそう告げるヒロインに、ゆきは羨ましい、と目を伏せた。だって、ゆきはそんな言葉を一度だって言えなかったのだ。
――――ゆきは恋人としては、最低なのだとそう思う。
最期の最期まで、ゆきはそんなことは言えなかった。天海へと剣を向けて、そうして世界のために戦った。何度も手を差し伸べてくれたその人を拒絶して、傷つけて。……しかも、多分きっと、ゆきは後悔していないのだ。例え時間が巻き戻ったとしても、ゆきは天海ではなく世界を取るだろう。それは果たして、本当にいいのだろうか。

「どうかしましたか、愛しい子」
ゆきの意識が映画から逸れたのがわかったのか、天海が耳元で囁いてきた。ううん、なんでもないの、と首を横に振った天海は何を思ったのか手元のリモコンを操った。その様を見て随分この時代に馴染んだものだな、とゆきは感心する。感心したと同時にぶつり、と音を立てて画面が真っ暗になる。
「あ」
天海が、テレビの電源を切ったのだ。どうかしたのだろうか、何か気に食わぬことでもあったのだろうかと問おうとして天海がまっすぐにゆきを見つめているのに言葉を失った。
「天海?」
「―――キミが何かを憂う必要など何もないのですよ」
「え?」
「キミは、キミの思うままに行動すればいいのです。私はそんなキミだからこそ焦がれるのだから」
「何を、言って」
まるで、天海は今までゆきが思っていたことを知っているかのような口ぶりだ。そんな馬鹿な、ゆきは何も言っていないというのに。そこまで思ってから、ゆきは己の恋人が神様であることを思い出して、途方に暮れた。要するに、ゆきの考えていることなど筒抜けということだろうか。
「キミが、わかりやすいだけだと思いますよ」
天海は、苦笑した。そうして徐に横に居たゆきを抱き締め、耳元へと唇を近付ける。

「もしも、私が世界中を敵にしたのなら」
ゆきは、その台詞に身体を強張らせた。何故だろう、天海が言う次の台詞がゆきにはわかってしまった。止めてほしい、どうかその先は言わないで、そう告げる前に残酷な神様は言葉を続ける。
「―――――キミは、世界中の味方になってください」
残酷な言の葉を平気で告げる神様に、ゆきは涙を零した。どうして、そんな酷いことを平気で言えるのだろう。もしもそうなっても、天海は笑ってゆきを赦すんだろう。それがわかったからこそ、切なくて声も出せなくて、ただ泣いた。キミは泣き虫な子ですね、天海はそう言ってゆきの背を撫でる。何故だろう、電源を切ったはずのテレビのスピーカーからエンドロールが流れた気がした。





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