好きでごめんね 愛してごめんね(リンゆき)

「――――――逃げたのか」
空になった鳥かごを見ていたリンドウを横目に、小栗はため息をついてそう言った。その鳥はつい先日、小栗がリンドウにやったものだった。その時、リンドウは特に興味もなさそうだったけれども、それは外見≠セけだったらしい。
「うん、逃げちゃった。大切にしていたつもりなんだけれどなあ」
どこまでも青い空を見上げながら、リンドウはぼやく。空になった鳥かごを撫で、それからほんの少しだけ切なそうに目を細めた。
「でも、まだ鳥はいいよ」
「何がだ」
「だって、羽があるもの。ボクがイヤになったらすぐに逃げてくれる」
「・・・・・・」
「笑わないの?」
「いいや。随分と酔狂なことだな、と思っただけだ」
小栗はそう言いながら、心の中で面倒な男だ≠ニ思った。リンドウは、花であれば水をやりすぎて腐らせる。ついでにそれは、去年くらいのことだっただろうか。庭に美しい純白の花が咲いたとかで、随分とリンドウは機嫌が良かったがすぐに花を散らせてしまったらしく落ち込んでいた。・・・・・・美しい花、といってもリンドウは独占欲も人より強いから、小栗は見たことがないのだけれど。
「そういえば、慶くんだっけ」
「何がだ」
「ボクにお前が執着したものは、随分と酷いことになるな≠チてそう言ったの」
薄く笑いながらそう言ったリンドウに小栗は眉を寄せる。確か、星の一族の書を見せて貰ったときにそう言ったような気がする。確か、花を枯れさせた時だったか。
「ボク、それまで自覚してなくてさ」
「・・・・・・。そういえば、随分と目を丸くしていたな」
その時のことを思い出す。子供扱いばかりするこのいとこがきょとんとした顔をしていたから覚えている。
「そういえば、昔、出きるだけ大切なモノを作らなければ、酷くすることもない≠ニそう言っていただろう」
「うん。出きるだけ心がけている」
「鳥を逃がしているだろう」
鳥かごを顎で示せば「慶くん、酷い」と唇をとがらせた。
「だって、あんまりにも可愛くて」
鳥かごの中にいただろう鳥を見ているかのように空になった鳥籠を撫で、リンドウは呟いた。
「たとえ、大事にしてやれない。そうわかっていても、」






「リンドウさん?」
優しい声がそっとリンドウの鼓膜を揺らす。うつらうつらと過去の記憶を辿っていた思考がその声で覚醒する。とはいっても、まだ夢見心地なのはリンドウの髪をすく優しい手のせいなのかもしれないけれど。
「昔の夢を見ていたんだ」
「昔の夢?」
「そう。気に入った小鳥を空に逃してしまった時の夢」
「・・・・・・小鳥、ですか」
「そう。ボク、大切なものほどボロボロにしちゃうって前に言ったでしょう?」
リンドウの手がゆきの頬を撫でれば、ゆきはその手へとすり寄るように顔を寄せた。あぁ、可愛い。その様子に思わず笑みを浮かべる。
「ボクはきっと、あの時、わざと鳥を逃がしたのかもしれない」
「そうなんですか?」
「さあ、どうだろう。あの時の気持ちなんて忘れちゃったからね」
小さく笑って、リンドウは目の前の少女の髪を掬った。
「大事なものを作らない、あの時、そう決めたんだけれどな」
「できませんでしたか?」
「うんそうだね。だって、どんなに自分の心を凍らせても、キミがボクのせいでボロボロになるってわかっていたとしても、」




(だって、愛さずにはいられなかったんだ)
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