純白の花をきみに

白ちゃんは、優しい。優しいから、全部をしょいこんじゃうんだよね。わかっている。この歪みきった不思議の国につれてこられた全ての“偽物”たちは皆、元の世界を憂いて、そうして絶望していた人たちだ。生きてても死んでいても同じだと、世界に生きている価値なんてないと思い込んでいる人だけで構成されている。最小限の犠牲で、最大限の効果を。それだけでも、君は優しいと思う。君はいつだって前を向いて、改善策を考えていた。常に問題を受け止めて、そうして解決していこうとしていた。……僕は、逃げてばかりだったから、そういう所も、尊敬しているよ。

―――――――――そう、僕は逃げてばかりだった。

元の世界でもそうだった。今はもう、遠い記憶の中にある世界は僕にとってはあまり優しくなくて、ここに来た時も世界に絶望していた。どうして、こんなにも世界は僕に優しくないんだろうとそう嘆いていた。今、振り返ってみれば、世界が僕に優しくないわけじゃなくて、僕が僕に対して優しくなかっただけだったんだ。でもね、白ちゃん。僕は、それが悪いとも思わなかったし、後悔もしていないんだよ。だって、君に会えたんだもの!僕は僕の居た世界を嫌悪し、生きていることに絶望し、その御蔭で君に会う事が出来た。それは、とてつもなく奇跡に近い。そうは思わない?

ねえ、白ちゃん。僕はね、この世界に来てから様々なことを学んだよ。君に、色々なことを教えてもらった。逃げないっていうことも、そのうちのひとつ。本当の優しさを知ったのも、君の御蔭。感謝してもしきれない。何て、言えばいいのかわからないけれど。きっと、君はもう僕の顔を見てくれない。そういう“設定”なのかもしれない。それならね、僕は君に花を送ろうと思う。知っている?不思議の国にある森の外れに、君にとても似た花がある。一見、茨に守られ、刺で武装しているその茎は、息をのむほどに美しい花を守るためのもの。“アリス”という美しい花を守るために刺だらけにする“君”。ね、似ているでしょう?だからね、僕はその花がとても好きなんだ。だからきっと、彼女も好きだと思うんだ。……僕の独り善がりかもしれないけれど。でもね、それでもいいんだ。僕は、とても幸せなんだ。逃げてばかりの僕は、だけれど君に対してだけは逃げないことを決めたんだ。いくら無視されても、存在がなかったことにされても。君は僕に“能力”を与えなかった。名前と、そうして優しさを与えてくれた。だからね、僕は君に精いっぱいの“大好き”と“ありがとう”を伝えるよ。この花に乗せて。


―――――――――僕は、もう逃げないから


 

つづき。

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