歪みの国から、そのむこう

アリス。
アリスアリスアリスアリスアリス、僕らの、僕の、僕だけのアリス。物語の登場人物でしかない僕には、何かを望むことなんか出来ない。そんなの、初めからわかっている。全てはページに綴られるように、シナリオ通りに動きつづけるだけの人形と同じ。いくら足掻いてみせたって、物語の登場人物という枠の外には決して出られない。もしかしたら、それすらも誰かに決められているのかもしれない。僕の全てが(それこそ、存在意義だとか、そういうのも含めて)誰かに“設定”を与えられただけでも、僕という存在はここにいるし、それを後悔したこともない。勿論、君の事が好きだと言う事も一度だって後悔したことはない。例えそれが“不思議の国の住人は全員アリスが好き”っていう設定だったとしても、それは変わらない。

でもね、アリス。

歪み続ける物語の中、ふと僕は気がついてしまったんだ。君に新たな名前を与えて、僕の傍に置いている間にもしかしたら君という存在はもういないのかもしれない、なんて。だって、そうじゃなければ不思議の国が壊れる理由だなんてみつからないもの。……あれ、僕は何を言っているんだろう。君はここに存在しているのに。僕の傍に居てくれるのに、君が居ない、だなんて変な話だ。君は、最初から最後までこの世界に居てくれたのにね。この世界は君のもの。君のために存在して、この国の全ては君の思うがまま。全てが偽物で作られている世界の中で君だけは唯一の本物のアリスだから。ねえ、メアリアン、ちゃんと聞いている?


不思議の国より、愛を込めて。




 

矛盾していることに気がついていない白兎は相当に歪んでいる。

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