突き詰めたリアルは美しい



物語にはセオリーというものが存在している。それは、例えばお姫様が幸せになるべき、だとか、最初は穏やかな日常が何かが起こることで一変しなければならないなど、エトセトラエトセトラ。数えようとすればその暗黙の了解は数えきれないほど多く、演出家として脚本を書く手前、そのルールを適度に守りながら書くのは至難の業だ。昼休憩をとり、歌劇団の中でも静かな場所を探しあるいていれば、声がかけられる。
「あ、夜凪くん」
「……あぁ、何だ。お前か」
「こんな所で何をしているの?お昼?」
「まあ、そんな所」
「そっか」
納得したように笑ったサツキに夜凪は考えを再開する。サツキの顔を半場隠すようにして掛けられた彼女には不釣り合いの眼鏡。眼鏡を取ったら美少女だった、だなんてある意味少女漫画の典型的なネタかもしれないけれど、その眼鏡を取るなと言ったのがカナデであればそれはまた違う意味を持つ。物事はとても簡単で、だからこそ本人の目を曇らす。戯れにサツキの眼鏡を奪えば、サツキは夜凪の行動に驚いたように目を瞬かせた。
「どうしたの?」
当初はすぐに恥ずかしそうな顔で俯いていた彼女も“調教”のしがいがあってか、最近は平然と夜凪の顔を見返すようになった。最も、それは夜凪の前だけでだったけれど。
薄暗い悦びに夜凪は口端を歪める。
「あぁ、やっぱり俺は御礼を言うべきだね」
最も、彼はそれを望まないだろうが。
「……?」
「ね、知ってる?物語というものにはセオリーがある。その中でも呪いをかけた悪い魔女っていうのは倒される存在であって、決してお姫様とはくっつかない。それをどんなに魔女が呪っていてもね」
「え、何。どうしたの、いきなり」
「ふふ」
上機嫌のままに笑えば、不思議なものをみるような目で見られた。けれど、気にならない。彼女の顔に眼鏡をかけなおして、夜凪は「じゃあね」と踵をかえした。王子様なんてものになる気はないし、そもそもの話、そんなのはあまり好きじゃない。けれどそれが彼女の隣に立つための義務だといえば話は別だ。緩やかに流れ続ける物語の中、どうやって糸を仕組み、映えるようにするのかは演出家である自分しだい。

「――――――あぁ、ホント、腕が鳴るね」


 

『この心に刺したナイフの先を、今も君が持っている』の続編でした
上手い具合に調教されているサツキちゃんは萌える。いや、なんとなくなんだけれどね! 個人的には脚本を書くということなのでトウワやハルが書きやすかったりするんだ。うん。

Image by tbsf  Designed by 天奇屋 Title by ロストブルー
inserted by FC2 system