どうしてだろう。胸が、焼きつくような感覚に奏は眉を寄せる。そっと抑えた胸、心臓のもっと奥の部分がひくりと痛みで収縮したようなそんな気がした。視線の先には自分の弟が居る。どうやら、バスケの試合中らしい郁人は活躍中らしい。
「頑張れ、園村君!!」
などなどの、周りの声援に涼しい顔をしながらシュートを華麗に決めていく郁人は姉の目から見ても十分に恰好良い……はずなのだけれど。なんというか、釈然としない。主に、声援に女の子の声が多いこととか、多いこととか。まさにこれが黄色い声っていう奴だと思い知らされんばかり。
「あらあら、応援はしないの?」
「……もう、十分に応援はあるんじゃない?」
「ふふ、そうかしら」
事ある事に奏を揶揄するのに全力を注いでいる友人はゆったりと笑う。
「彼にとってはお姉ちゃんに頑張れ、といわれるのは特別なものよ」
「でも、今、対戦しているのはウチのクラスなんだけれど……」
「あら、そんなことをしたら弟君が悲しむわよ?」
「そんな馬鹿な!」
「じゃあ、試してみなさいな。大きな声で“頑張れ―!”って」
「……郁人ー、適当に頑張れー」
「あら、お姉ちゃんやる気ないわね」
「いやだって!何か恥ずかしいっ!」
「駄目よ、そういったものは捨てなきゃ。案外声を出すのは気分がいいわよ、それに多分、夕食のおかずが一品増えるんじゃないかしら」
「……郁人―!がんばれー!!」
ボールを持っていた郁人がその声に驚いたようにこちらを見たような気がして、奏は瞠目する。勿論、目があったのは一瞬で、だからこそ奏の気のせいだったのかもしれないけれど。ふと気がつくと、琴子のなんともいえない視線が奏へと注いでいた。
「………。」
「え、何?」
「現金ね」
「郁人のご飯は美味しいよ?」
なんならウチに来る?と首を傾げれば琴子はこれみよがしに溜息を吐いた。
「今のやりとりは絶対に言わないであげたほうがいいわね。それにしても、色気よりも食い気とはこのことかしら。まあ、餌付けともいうのかもしれないけれど」
「そんなこと」
「ないって言える?」
「……だって美味しいんだもん」
うっとつまって、拗ねたように唇を尖らせれば
「―――――――憐れね、弟君」
と、彼女にしては珍しく郁人へと同情的な視線を向け、奏を見てこれみよがしに溜息を吐いてみせた。