綺麗事のようにして、歪んだ感情  

「恋、愛なんて幻想にすぎませんよ」

たかだかほんの少しばかり知能があがったところで、何かをいつくしむなんていう行動をとれる生き物なんていないのだろう。 そもそも慈しむという行動すらわかっていない生物が多いのではないだろうか。
岩峰から言わせてしまえば慈しむ≠ニいう感情だって、その裏には打算が見え隠れしているようにすら思える。母親が子供を慈しむ?それすらも、実際は自分の遺伝子を残そうとするという行動故のものであるのだ。

愛だとか恋だとか。

人が政権を握っていたころというものは、人間たちはそれらによく振り回されていたものだった。しかしながら、岩峰にとってしてみれば、そんなものはただの幻覚にすぎない。
そもそも愛だの恋だのというものは目にはみえない。そうだというのになぜ、人間がそんなものに対して必死になるのかがよく理解できていなかった。それは自分が鳥だからだろうかと思っていたが、どうやらそれは違うらしい。知能を持ったところで、恋だとか愛だとかに振り回されているのは人も鳥も一緒だった。一歩引いた遠い場所でソレらをみていたところで特に興味をそそるわけでもなく滑稽だ、の一言で終わる事実。ついでにそれらの母集団を観察している立場からいわせてみれば、その滑稽なる行動は、脳が化学物質を出しているものにたいして反応しているんだろうとただそれだけだった。
いわゆるアドレナリンが作動することにより生き物というものは興奮する。興奮すれば血管は収縮するだろうし、それは心臓の機能の亢進になるだろう。いわゆる、【ドキドキする】というものは脳がそれらの伝達物質をだしているにすぎぬ。狩りをする時を考えるとわかりやすいかもしれない。筋肉は収縮するだろうし、内臓などの消化器官は機能を停止する。だから、ようするに。

恋だとか愛だとか、そんなのは人間の錯覚であり、この世界には存在するはずがないのだ。

さて、何故岩峰がそんなことを思ったのか、話は簡単だった。そもそも、ことの始まりは保健室で彼女が熱心に本を読んでいたことからはじまる。その姿は初めて見るもので、岩峰はその姿を見た瞬間、言葉を失った。なんというか……似合わなかった。そのままぽろりと本心が出てしまったのか「貴方でも本を読むのですね」と言ったところ彼女は「失礼な!」と怒ってみせた後にすぐに持っていた本の内容をペラペラと喋り始めた。今、流行っている恋愛小説。それらのあらすじを一通り聞き終わった後、岩峰は一言。

「くだらない」

と鼻で嗤った。そうして、冒頭に戻るわけである。

淡々と恋がいかにくだらないものであるかを語ってみせれば「うわ、ロマンがないですね」とあきれたような顔をしてそのヒト≠ヘいった。

「貴方も所詮は人だということでしょう」
「そういうもんですか?」
「さあ、どうでしょう」
「言っていることが違うような気がします」
「そんなことありませんよ、要するに、貴方には理解力が不足しているようですと言っているのですから」
「……。今、けなされていることは理解できるんですが?」
「おや、ひとつ賢くなったようでよかったですね」
「そりゃあ、先生よりは私は頭が悪いけれど。でも、私だってひとつくらい先生の知らないことを知っているんですよ」
その言葉に興味をひかれた。彼女が知っていて、自分が知らないことなんてあるのだろうか。
「なんですか、それは」
「……」
彼女は私の反応が意外だったのか、数度またたきを繰り返すとにっこりと笑った。


「実は、先生みたいな人のほうが恋だとかそういったものに目覚めた時、抜け出せないくらいにおぼれるんです」



***

確か、彼女が自信満々に言った言葉に対して二度目の「くだらない」と吐き捨てたのを覚えている。あぁ、あの時はああ言いましたが今となってみれば貴方が正しかったのでしょうね。愛だとか恋だとか。そんな目に見えない、数値にできないことなど意味はないとずっと思っていた。今も、思っている。そうだというのに、貴方の顔が忘れられない。もう喋らない貴方に、けれどもずっと私のもとにいてくれる貴方に幸せを感じてしまう。

矛盾した、想い。

もしかしたらこれが恋という感情なのかもしれないと思いながらもけれど答えを返してくれる彼女はもう目をあけない。だから、何度も何度も彼女との想い出を辿り、繰り返し、そうして私は生きていく。あぁ、そういえば。





彼女が読んでいた本は、なんていう名前だっただろうか。

 

岩峰先生が何故か人気。いやわかるけれど。子安だし、あーいうキャラは美味ですよね。っていうかそもそも保健室の先生っていうところも萌えポイントなんだろうな…あれなんでこんなに美味しい所がいっぱいあるの、あの先生。ずるくない?
っていうか、何気なく黒幕なあたりも素敵ですよね。私は未だにエンディングを迎えた時の衝撃が忘れられません。

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