誰を想い君はその瞼を赤く腫らすの (ヒロイン←恋愛番長)

何気なく微笑む仕草だとか、気遣いだとか、そういった女らしい≠アとはできるのにけれども彼女は恋が出来ない体質のようだった。決して、付き合ったことがないわけではない。けれど、恋愛が出来ない。恋人を愛せなかった。だから駄目だった。きっと私は恋ができないのだと思う。彼女はそんな人間だった。1年間の期限付きで「恋人」になり、恋愛のハウツーを教える、というのはいい案だったと思う。きっと4月に時間が戻れるとしても俺は彼女にそう指導しただろう。だがきっとそうすれば再び、彼女は俺ではなく他の誰かを選ぶのだろう。それもわかっていた。もしかすると、恋をしてしまったのかもしれない。どうしようもない、実るはずのない恋を。

その日、彼女をみつけたのはたまたまだった。冬の寒さに凍えながら、公園の横を通ると視界にみなれた人間。おや、と思いよくよくみてれば彼女はたったひとりで泣いているようだった。喧嘩でもしたのだろうか。眉をひそめながら、声をかければ彼女は慌てて何事もなかったかのように笑ったが、けれども涙の痕は決して消えてはくれない。けれども理由はまるで貝のように唇を閉ざしたまま。けれども聞かなかったことにする≠ニいう前提で、ようやく聞きだしてみれば、彼女は「辛いのだ」とそういって泣いた。

「恋の良さを教えて欲しいと言ったのに、恋なんて苦しくて辛くて、こんなことならば知りたいなんて思わなければ良かったとすら思うの」
ぱたぱたと涙を落して、彼女は「ごめんなさい」とそういって俯いた。彼女からしてみれば、自分のためにこんな親身になっている相手にはこんなこと言いたくなかったのだろう。
「あぁったく、泣くなよ、エンジェル」
頭を撫でて、そう言えばまた小さくごめんなさい≠ニいう言葉が聞こえた。別に謝ってほしいわけじゃない。けれども泣かないでほしいとは言えなかった。いっそのこと、俺にするか、と言わないだけ自分はまだ理性を保っていられるようだった。
「恋は辛い。そして苦しい、でもそれがあるからこそ、恋の良さは格別だ」
「……うん」
「もうちょっと、何で苦しいかを考えるのもいいかもしれねえな。で、どうしても辛くて、逃げたくなったら俺に相談すること。大丈夫だって!なんってったって、俺はアイツらの中でも一番経験豊富な恋愛番長≠ネんだからな」

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