理想や憧れで腹はふくれない(恋愛番長)

きっと、彼女は優しすぎる人間だったのだと今ならばそうわかる。誰かを特別に愛することができないのだ、と彼女はそういって俺に申し訳なさそうな顔をした。付き合ったことはある。けれどもそれは本当に相手を好きなのかどうかすらもわからなくて結局は駄目になってしまったのだと。つきあってみると、彼女は頭が良い人間であり、そうして観察力もあるようだった。相手の人間を見て、感じて、そうして相手の気にいる≠謔、に演じることに長けているのだ。それにきがついて、あぁ、そうかとどこか納得した。演じた自分を好きになってもらったところで、どうすればいいのかがわからないのだろうとも。そうして、演じつづけていると疲れてしまうということにも。もしかしたら、恋愛番長である自分の前でも彼女は無理をしているのかもしれない、と疑心暗鬼になったといったなら怒るだろうか。何気なく、そういったところ、彼女は怒るよりも先に目を丸くした。そうしてほんの少し考えた後、
「怒らないよ」
彼女はあっけらかんにそういうと微笑った。
「だって、別に演じてるつもりはないし。番長といると楽しいのは本当だもの。私、番長といると楽よ。他の誰よりも一緒に居たいとそう思う」
きっとそれって、番長が私が私らしくいてくれるような空気を作ってくれたからだと思うの。彼女はそういうとにっこりと笑った。こんなとき、自分のふがいなさと、彼女の成長がまぶしく感じる。

「ほんと、お前っていい女だよ、エンジェル!」


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