神様、どうかもう少しだけ(ミステリアス番長)(ミステリアス番長)

私のことをすべて知っているかのようなその手が好きだった。不思議という言葉がとても似合うその人が好きだった。好き、好き、好き。ほんの少しだけ、まるでふわふわとした、深夜に降り続くまっしろで小さな雪が朝になると世界を一面白く埋め尽くすかのように気がついたら、その感情は自分をすべて染めていたのだろうとそう思う。そう、だから私がこの人に恋をしているのだと気がついたときにはもう既に手遅れというのにふさわしい状況だった。自覚してしまえばどうすればいいかがわからなくなる。恋愛音痴、とツンデレさんに言われたけれどまさにそのとおり。恋愛初心者であり恋愛音痴である私はもうそのときにはどうすればいいかがわからなくなっていた。それこそ、ミスティさんの顔をみることすら出来ないのではないかとそう思っていたわけで、
「どうかしたのかい?」
穏やかなその声が好きだった。私の名前を呼んで、静かに私の話を促してくれるその優しい人が、好きだ。好きだからこそ、私は愕然とするのだ。この架空の恋人という関係は偽者であってほんものではないことに。あぁ、どうして。どうしてなんだろう。泣き出したくなるのに、けれどもコレでよかったようなそんな気もする。誰が、初恋は叶わないなんてそういったんだろう。私はすべてを悟られないように微笑んだ。
「なんでもない」
いつからか、私は嘘をつけるようになった。もしかしたら下手なのかもしれないけれど、ミスティさんは何も言わなかった。何も言わず、抱きしめてくれた。暖かい。私を何かから隠すようなそんなしぐさに甘えて、私はその人の胸に頬をあてた。こんな顔、貴方には絶対に見せたくなかった。あぁけれど神様、願わくば、あとすこしだけこのままで。




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