恋と奇跡の狭間

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短文で挑戦!
なんだか最近sssの表記でもいいんじゃないかという気がした今日この頃。
200文字から300文字以下。

 01、絡めない指

ぼんやり、目の前に歩いている人の背を見る。つかず、はなれず。まさに今の孔明と花の距離のよう。孔明はいつだって花に優しくしてくれたけれど、だからこそ、誰よりも厳しく花の前に線を引いていた。それが寂しいと思うのは、きっと花が孔明に恋をしているからなんだと思う。
花は自分の掌を見つめた。
今は絡めない指、絡むことの出来ない指は、いつか彼に触れることを赦されるのだろうか。

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02、電線

この世界の空は広いような気がするなあと花が考えていると、ふと理由にきがついた。
「…あ、電線がない」
電気が無いのだから、当たり前の話だ。疑問を解消してすっきりした花に「でんせん?」不可解そうな顔をして孔明が首を傾げた。花は説明しようとして、悪戯心を起こした。いつだって揶揄されているんだから、たまには仕返しをしてみたい。

……最も、孔明がだまされるはずもなく後ほどこってり絞られるはめになったのはご愛敬。

03、聞こえるように

「聞こえないなあ」
にやにや、にまにま?そんな効果音がつきそうなくらいにイイ笑顔の孔明に花は頬を引き攣らせた。ことのはじまりは、花が「たまには師…孔明さんからの告白が聞きたいです」と強請ったことから。……けれど、そういった花に孔明は
「人に強請るのならばまず自分から、ね」と言われ、冒頭に戻るわけであるのだが。うー、と唸る花が白旗をあげるまでにあと5分。

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04、 ハリネズミ

今日の孔明は、まるでハリネズミのようだ。ピリピリしているというかなんというか。どうかしたのかと問うても孔明は「なんでもない」の一点張り。様子が可笑しいのはわかりきっていて、けれども本人に言う気がないのならば仕方がない。諦めた花に孔明は面白くなかったのか更に拗ねた。呆れた花に、孔明が更に臍を曲げたのは仕方がないこと。


05、見つけ出して

「ほら、花。いつまでそんな所に居るの」
そんな言葉と共に、手が差し伸べられた。顔をあげる、そこに誰よりも好きな人が居て、花はなんだかとても泣きたくなった。泣きたくなったのがわかったのか、孔明は花へと目千をあわせるようにかがむ。そうして、まるで幼い子を宥めるように花の頭を撫でた。温かい。その手の温度に花は目を瞑る。

なんだかんだといいながら、孔明はいつだって花を見つけてくれるのだ。

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 06、羽音

夏の羽虫は、灯に焦がれて身を焦がす。
よくよくかんがえてみれば、孔明もきっと同じものなのだろうと思う。彼女という女性は孔明には眩しすぎて、優しすぎて。

きっと身を滅ぼすとわかっていながら、けれど焦がれることなどやめようがない。

07、距離感

適度な距離感を保つのは、案外難しい。
近すぎても駄目、遠すぎても駄目。何かあったときにすぐに手を出せるように、そうして適度に遠く。だって、本当ならば甘やかしてやりたい。自分なしでは生きていけないくらいに甘やかして、孔明に依存させてしまいたい。確かにそれは出来るだろうけれど、彼女のためにはならないから、やらない。
「あーあ、距離感って難しいなあ」
ぼやいた孔明に、師の心を知らぬ弟子は不審そうな顔をした。

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08、シアワセ

「幸せって、キミにとってはどんなもの?」
「…へ?」
「そのままだよ。もしも願いを叶えてくれるって仙人に言われたら何を頼む?お金持ちとか、不老長寿とか、あるでしょう」
「そう、ですねえ。特には…あ、美味しいもの食べたいです。おなかいっぱい」
「……」
「なんでそんな顔をするんですか!」
「いいや、あんまりにも予想通りだったからどう反応したらいいかがわからなかったんだよ」

09、あしおと

蜀の国に雪が降った。雪が降ってからというものの、窓から視線をはずさなかった花に声がかかる。
「そんなに珍しいのかい?」
「雪自体はあったんですけれど」
花は窓から手を伸ばした。本当は外に出たかったけれど孔明が「雪くらいではしゃぐのはキミくらいだからやめときな」と言ったので控えている。
「綺麗」
景色は白一色で、他の色はなにもない。本当ならとても怖い光景でも綺麗にみえるのは、きっとすぐ傍に孔明がいるからにちがいない。

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10、ブルーブルーブルー

「師匠」
「なにー、花」
「顔が青い」
「空が青いからだよ」
「意味がわからないです」
花は眉をよせて孔明の顔を覗き込んだ。怖い顔、孔明が呟くと花はますます怖い顔をした。結局はそのまま怖い顔を保つことが出来ずに困ったような顔になる。
「休んでください」
「大丈夫」
「師匠、」
「ただ、夢見が悪かっただけだから」
「夢?」
キミの居ない世界で生きる夢を見た、なんてこと言える筈もなく孔明はただ曖昧に微笑ってみせた。

11、  骨と直線

「女の子、なんだねえ」
「なんだと思ったんですか」
唇を尖らせた花に孔明はくくと笑う。そうして、手を伸ばす。背中を人差し指で辿る。丸い、柔らかな曲線。白い肌を辿りながら「女の子だ」しみじみと呟いた。
「もう、いったいなんなんですか」
「だって」
彼女が孔明とは違う人間で、生きる世界も違うのにこんな風に出逢って一緒に生きているのはとても低い可能性だ。だからこそ、そう、これはきっと。きっと奇跡というんだろう。

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12、白濁

ぼんやりとする思考に花は溺れそうになる。孔明に触れられるだけで頭がぼんやりするような気もする。今日は、特に。柔らかな手、声を聞くだけで頭に響く。
「花?」
はな、はな、はな。頭の中で、エコーがかかる。花は返事をしようとして、何故だか舌が上手く動かない。返事がない花に気がついたのか、孔明が花へと近付く。孔明の手が、花に触れる。段々と、意識が白濁していくような気がした。ふわふわ、ゆらゆら。自分が立っているのか座っているのかもわからなくなって、そうしてようやく花は孔明に支えて貰っていることに気がついた。孔明の溜息。うつらうつらする意識の中、孔明の呆れた声がした。曰く、
「風邪をひいたね、花」

13、羽にも似た自由を

天女の羽衣を隠すだなんて、そんな馬鹿な真似を孔明はしない。そもそも、天女から衣を奪えばただの人。それはほんとうに、自分が愛した天女であるのか。その答えが、孔明はいまも昔もわからないでいる。
「師匠?」
「んー?」
「いい加減に仕事に戻らないと、」
「あと十分―」
「どこで覚えたんですか、そんな言葉」
「花が寝言で言っていたんだよ」
「嘘!」
「嘘を吐いてどうするのさ」
孔明は欠伸をして、そうして目を瞑った。花の膝の上は心地が良い。こうしていれば、花がどこにもいかない、なんてそんなことを思っている自分は羽衣を隠した男と大差はないのかもしれない。

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14、ここから遥か遠い日に

いつか花は孔明を置いていくのだろうと思っていた。
そんなことわかっていた。わかっていたからこそ、孔明はいつでも花の手を放せるように練習をしていたのだ。まずひとつ、孔明の名を呼ばせないように。まずふたつ。敬称で呼ばれるように。これらは同じようで、けれども全く違う。後者はとくに戒めだった。自分が、彼女の前でみっともなくならないようにという。
「……あんまり意味がなかったけれど」
「へ?」
「なんでもないよ。こっちの話」
孔明は溜息を吐いた。終わってしまえば、結局は全て孔明の徒労だったのは笑い話でしかないだろう。

15、天才

「僕さあ」
「はい?」
「こう見えても神童とか天才とか色々と持て囃されていたわけなんだけれど」
「なんですかそれは自慢ですかどうせ凡才ですよ」
「いやさいごまで聞こうよ」
「……なんですか」
「いやでもなんか結局は天才でも神童でも人間だったんだなーって悟ったんだよね」
「意味がわからないです」
「ようするにさ」
「僕はキミの前だと恰好悪くなる気がする」
困ったような顔で笑われて、うっかりきゅんとしたなんてそんなこと、花がいえるはずがない。



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16、優しくしたいだけ
触れる、噛みつく、痕がつく。優しくしたいと言うのに、同時に傷つけてしまいたいとすら思う。ボロボロにしてしまえば、彼女が帰れなくなるようなそんな気がして。悲鳴があがっても、けれども彼女は決して孔明に抵抗しない。どうして、なんで、と泣きたくなるのに、けれども傷つけている孔明が聞くことはできなかった。大事にしたいと思うのに、どうしてこんなことをしているんだろう。ただ、優しくしたいだけなのに。

17、眠れない白昼に


うつらうつらとする。白昼夢。彼女が出てきた。笑っている、そうして孔明に何事かを囁いて、そうして消える。花?呼びかけても誰も居ない空間。優しかったはずの温度がただ、孔明の肌の上に残る。がばり。と起き上がる。覚醒。
「師匠?」
大丈夫ですか、と顔をのぞきこまれて無意識に手を掴んだ。温かい。その存在を確かめて、泣きたくなる。
「師匠?」
不思議そうな声に、孔明は泣きそうな顔で笑って見せた。今、キミはここにいる。

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18、いずれはこの願いすら


世の中というものはとても不条理で、だからこそ、その世界に生きる人間という生き物も不条理な生き物である。孔明は仕方がない、と諦めているがけれども諦めきれないものというものはあるわけで。そうしてそれは、不条理な生き物同士で出来ている世界だからこそぶつかり合うのは仕方がないことである。
「だからこそ、話し合いがあるんですよ」
とは己の弟子であり師匠の言い分である。そうできたらいいのにね、と孔明は竹簡を放り投げた。

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