は?なんだよ、いきなり。諸葛孔明について知っているか、って?まあ、そりゃあ、なあ。青洲兵の中では、それを知らねえ奴は居ねえだろうよ。なんたって、我らが道士様を掻っ攫っちまったやつだからなあ。そもそも、此処だけの話さ。誰にも言うなよ?ま、信じられねえかもしれねえが、アイツも黄巾党の一員として働いていたことがあるのさ。信じられねえって顔をしてんなあ、ま、俺もそう思う。あんなちまちまとして、いつも道士様の後ろをつき従っていた亮が彼の臥龍になるだなんて誰が想像出来るものか、ってね!
何だかんだと言いながらも、亮は昔から頭が良かったからなあ。ん? 亮って誰だって…あぁ、お前さんは知らんか。孔明の前の名前さ。幼名、といったほうがた正しいかもしれねえが。そうさ。孔明が黄巾党に参加したのは随分昔のことさ。それこそアイツが俺の腰くらいの背で……なんっつーか、生意気だったな。


今となっては笑い話かもしれんが、黄巾党の食糧庫が狼の群れに襲われてな。どうやらそれは亮が企んだことらしい、とか。まあ、これはあくまで噂だろうがな。アイツ、黄巾党に恨みがあるからなあ、それらを知った奴らが面白半分に流したんだろう。どうやら暴走した奴らがアイツの父親を殺したみたいでな。
それが本当に黄巾党だったのか、なんてことはもうわからねぇけれどよ。それで…あぁ、そうだった。確か運悪く、亮が馬車に何か細工をしている所を仲間に見つかって袋叩きされそうになった所を、道士様が慌てて出てきて、亮を抱きしめて「この子は私の弟子です。私が馬車の方をみてくるようにいったんです」と言ったんだ。その場ではまあ、道士様がそういうのならばそういうことに、みたいな雰囲気になったんだけれどなあ……道士様の御蔭で勝利を手にすることが出来たんだ。

そりゃあ、道士様が言う事は正しいに決まっているだろう?でもそれからは、亮は道士様の傍にずっと居た。道士様が右へ行けば右に、左へ行こうとすれば左に。いつだってぴたりとくっついている亮は、道士様に近付きたい奴らからすると邪魔だったんだろうなあ。

…え、俺?なんだよ、別にそんなんじゃねえよ。ただ…そうだな、晏而なんかはいつだって歯軋りしていたなあ。なんだかんだで、晏而は結構やきもきしていたみたいだった。アイツは、道士様に心底惚れていたみたいだから。まあ、気持ちはわかるさ。いきなりふらりと現れたかと思えば、見た目は普通の少女だっていうのに、誰にも考えられないような策を次々打ち出すんだからな。仙女といわれたほうが納得する。

ありゃあ、人間じゃないとな。それに、とてもお優しい方なのさ。

人の痛みを同じように苦しみ、人の喜びを誰よりも喜ぶ。そんな人間、今のご時世、居るわけがないだろう?仙女と言われればそれがしっくりくる。どうにも人間離れしている御方だったからな。道士様は、人に出来ないようなことを簡単にこなしてしまう方だった。だからこそかもしれないが、自然と人を引き付ける。まあ、それは、今もだろうが…っと、話がずれたな。

何を話そうとしたんだか…ん?道士様と亮の関係?あぁ、師弟関係さ。もちろん、道士様が師匠で、亮が弟子。何故かわからないが、今は反対になっているようだがな。まあ、それもこれも道士様はこの世の人ではないからな。何があっても俺は何も思いださないさ。それこそ、道士様が戦のさなかに光と共に消えたとしても、なあんに驚きはせん。ただ言えるのは、亮にとっては道士様が何よりも大事だっていうことくらいさ。きっとアイツの事だ。道士様を幸せにしてくれるだろうよ。今も昔も、亮は道士様のことしか見ちゃいねえんだからな。



恋愛は健全であるか
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