「いやあ、本当にお前の所は仲がいいなあ」

うらやましーわ、と酒を煽りながら上機嫌にそんなことを言った男に孔明は溜息を吐いた。同じ師に師事し、机を並べていた男は孔明にとって良き友(というよりは悪友だとか腐れ縁だとかに近い気がする)であるが、何かと言うとすぐに面白がって事態を引っ掻きまわすという悪癖を持っていた。引っ掻きまわすのがただの男であれば良かったのだけれど、腐っても鳳雛と呼ばれていた男だ。彼が何かをする度に散々に振り回されるわけで。

「士元、また何かやるつもりなら今度こそ容赦はしないよ」

以前、花に孔明のことを“師匠”と呼ぶように教えていた理由を花の前で暴露された経験はまだ記憶に新しい。まあ、それは花にきっちりと“躾けた”からそれはそれでいいとして、これ以上何をされるかを想像するだけで頭が痛くなってくる。士元を軽く睨みつければ、彼は大げさに肩を竦ませてみたい。

「おお怖い。大丈夫だ、安心しな。まだ、今の所は手を出す気はないさ」
「今のところは、ねえ」

まあ、いいけれど。そう言いながら酒を煽れば、横で士元はにやにやと笑っている。気持ちが悪い、と吐き捨てれば「お前、本当に変わったなあ」と頬杖をついた。

「昔はそれこそ、ただ知識を貪ることしか頭になかったくせに」
「そうだったっけ」
「おう、人間らしくなった」
「昔の僕はそんなに人間らしくなかった?」

思わず苦笑を浮かべた孔明に「そうだなあ」と士元は目を細めた。遠くを見るような目は、昔の日をそのままに映し出しているような気がした。

「不安定、だったな。ぐらぐらしていて、地に足がついていない」
「―――――――そう」

それはまるで花のようだ、と多分今頃の刻限であれば部屋で寝ているだろう少女を思い浮かべる。この世界ではない、どこかからやってきた不思議な少女。自分の師であり、そうして弟子でもある少女。

「彼女の御蔭だろう?」
「どうだろうね」

わかりきっているだろう問いを曖昧にはぐらかせば、男は「俺は嬉しいよ」とくつくつと笑ってみせた。眉を寄せた孔明に士元は笑う。

「彼女御蔭でお前のことを揶揄できるからな」
「―――――――それは」

一瞬、言葉に詰まった。孔明はなんと言うべきかと逡巡し、そうして目を細めた。

「いい度胸、だね」


にっこり、と笑みを浮かべれば士元は笑った。心底、嬉しそうに。普段は全ての感情や思考を押しこめる男のその心からの笑みに孔明は瞠目し、そうしておおげさに溜息を吐いてみせた。


青い春の不純性
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