花が玄徳フラグを立てたまま、孟徳軍に捕らえられた後で
孔明*花前提の 玄徳+孔明 の捏造話。
こんな会話があったら萌える!というただそれだけのもの。



闇を掻き切ろうとするような鋭い形をした三日月が浮かぶ夜だった。玄徳はぼんやりと空を見上げ、月を見て目を細める。様々な思惑が渦巻くこの世界、明日生きられるか、死ぬかの世界で己の義を信じ、戦い続ける。
それに一度だって後悔はしたことはないが、けれども時折、疲れるのも事実だった。思わず溜息を吐いた玄徳に、かさりと葉の揺れる音が響く。風は吹いていない、玄徳は眉を寄せる。

「……誰だ?」
刺客か、と身構えた玄徳にその音の主は「おや、見つかってしまいましたか」と笑った。
木の上に居たのだろう、彼は軽やかな身のこなしで地面に降り立ち、姿を露わした。まるで猫のようだ、と思い、現れた男を見る。見た所、刺客とは思えなかった。武器もなければ、敵意や殺意といったものも感じられない。

「お初にお目にかかります、玄徳様。私の名前は諸葛孔明。こうしてお会いすることが出来て光栄です」
「……孔明?お前が、か」

玄徳は想像よりも随分と若い男に目を丸くした。何度も“力を貸してほしい”と庵に足を運んでものらりくらりと放浪していたせいで中々捕まらなかった男が、今、この場に居る。今こそ、力になってほしい、と頼むべきではないかと思い、けれどもその言葉は中々口にすることは出来なかった。
(……花……)
少女の柔らかな笑みを思い出す。孔明の弟子である彼女を戦場の最中に孟徳の手に渡した記憶はまだ真新しい。いつだって傍にいて、玄徳の言葉に喜んだり、照れたり、素直に感情を表現する花に、玄徳はどんなに心奪われたか。失ってから、大切さを知る、だなんてそんなこと、知りたくなかったというのに。
言葉を閉ざした玄徳に何を思ったのだろう、笑みを保ったまま孔明は唇を開いた。

「――――以前、私が玄徳様に書簡を送ったのを覚えているでしょうか」
「どれの事だ?」
「弟子の花を貴方に預ける、ということを書いた書簡です」
「……あぁ、覚えている」

けれど、花は今、この城には居ない。孟徳に捕えられ、そうして子龍の助けを拒否した。
それは、玄徳の傍よりも孟徳の傍に居ることを選んだということだ。どこを選ぶか、それは彼女次第、そう、思っていた。ずきりと痛む胸に玄徳はそっと目を閉じる。孔明はそんな様子の玄徳を見て、目を細めた。一見、柔らかそうな印象の男だが、それだけの仕草で纏う雰囲気が随分と厳しくなる。

「私は彼女を貴方ならば守ってくれると判断し、そうして送りだしたつもりです。そもそも、軍師が戦場の前線に出ることなど滅多にありません。そうだというのに、これはどういうことでしょう」
ゆるり、と羽扇で唇を隠して孔明は微笑んだ。威圧感に圧倒されるとは、まさにこの事だろうか。決して、剣を突き付けられているわけではないのに、まるで首元に刃があるような錯覚を受ける。玄徳はごくりと唾を飲み込んだ。

「迎えには、行ったが……断られたんだ」
「まさか、迎えに行っただけで義務を果たした、そう仰るつもりではないでしょうね?彼女が孟徳に何か弱みを握られ、そう答えなければいけない状況にいたと判断することは?孟徳は逃げ道を塞ぐのが上手いと、誰よりも玄徳様はご存じのはずですが」

孔明の言葉に、玄徳は押し黙った。何も言い返すことが出来なかった。それに、彼女は子龍に対していくつもの有益な情報を託し、玄徳の元へと送り返したのだ。

「いわば、彼女は僕の化身。そのような事を仰られると、貴方は私の信頼を裏切ったのだと、そう判断せざるを負えません。彼の義に厚いという玄徳様に試すような真似は失礼かと思いましたが、貴方はそれだけのことをしたのですよ」
「――――――そうか」
「えぇ、ですから仕えるのにひとつだけ条件を示させていただこうと」
孔明の意外な言葉に玄徳は「条件?」と怪訝に思う。てっきり、仕官する話を断られると思っていたのだが。孔明は羽扇を揺らめかせ、そうして唇を開く。

「私が、玄徳様に仕える条件はただひとつです」
孔明は口端をあげた。


「――――――孟徳軍から花の奪還を」




こんな感じのイベントが発生することを夢見ていた、そんな時代もあったよ(遠い目
というか、ここから取り戻しちゃえばいいんじゃないとかそう思う。
むしろなんだか続きそうで一瞬どぎまぎした。続けてもいいのかなあ。
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