ごろりと花の膝に寝転がる孔明はまるで猫のようだ。自分の可愛さを解っているために図々しい態度をとるというか、なんていうか。別段、孔明は猫でもなんでもないから可愛くもなんともないわけで。というか重い。じんじんと地味に痛みを訴えていた足は限界を超えて感覚がなくなりかけている。これは、きっと当分立てないだろうなあと花は他人事のように思った。
「師匠」
「んー?」
「重いんですけれども、もうそろそろどいてくれません?」
「えぇ、やだよ。まだ休憩時間だよ」
15分も休憩すれば十分だと思うのだけれど、いいかけて花は孔明の目の下にある隈を見つけて口を噤んだ。どうせまた、寝ていないのだろう。花にはキリが良くなると体よく「さっさと寝な」と執務室から追い出すくせに自分は寝ずに仕事をしているだなんて。確かに孔明は優秀だ。人の精いっぱいを簡単に越えて、2倍も3倍も働く。けれども、孔明だって人間だ。適度に休憩を入れなければ、たおれてしまうのに。
「寝るのなら、もっと良い場所があるでしょう」
「僕はここがいいの」
ふわあ、と欠伸をした孔明はやっぱり猫みたいだ。ぼんやりと孔明の様子を見てあ、と花は気がつく。
「師匠の手って意外と大きいんですね」
「……なにそれ」
「ほら、だって」
花は孔明の手をとり、おのれのそれと重ねあわせてみせた。ひとまわり違うその手の大きさに花は笑った。
「全然違うんですね。師匠ってやっぱり男の人なんですね」
花の言葉に、孔明が黙り込む。
「それって、微妙じゃない?僕が男に見えないってことかい?」
「そういうことじゃなくて」
花は苦笑した。孔明の手を掴み、じっと手をみる。
「だいたい、手を見ていると、その人の人なりがわかるんですよ」
「へえ、僕はどう見えるの?」
人さし指、中指、そうして親指の付け根。ところどころ硬くなっている所は筆を握っている頻度が高いから肉刺が出来ている。これは、孔明がどれくらい勉強をしたかを表し、そうして今でも同じようにしていることが窺える。花はふ、と触れた場所が硬くなっているのに気がついて怪訝な顔をした。
「師匠って、剣を使うんですか?」
「――――――」
孔明は驚いたように目を見開いた。そうして、花を見る。
「どうして?」
「ああ、やっぱり。ここ、皮膚が硬くなっているんです。短剣ですね。護身用でしょうか」
「そんなことまでわかるのかい?」
旅をしていたから護身用程度には扱えるよ、そう言った孔明に花は「なるほど」と頷いた。
「手で、その人の人なりがわかるなんて面白いよね」
「そうですよね、あの、師匠?」
「うん?」
「顔が赤いのは、どうしてですか」
「……なんでだろうね」
手を見て、そうして心がわからなくて良かった、と孔明は安堵する。顔が赤い理由。 ようするにそれは、恋はなんとかという奴だった。





恋は単純、愛は盲目




子龍ルートの東屋での攻防にて、師匠と花ちゃんの手の大きさに萌えた。
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