毒とは、一般に生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の総称である。けれど一言で毒といってもたくさんの種類がある。毒に対しての、基本的な考え方としては、ほとんどの物質は多かれ少なかれ毒性があると考えられている。毒とはだいたい体に有害な作用を及ぼすものと考えられていて、これらを前提に考えてみると彼女という存在は毒といっても過言ではなかった。彼女は、生命活動にすら影響する。甘く、柔らかく、心地が良いが、一度、彼女に触れれば二度を求め、そうして三度求める。そうして気がついた時には彼女なしでは決して生きて行けぬ体となるのだ。ああ、まさしく彼女は毒の中の毒。当人は毒だとは気が付いていないのだろう。それだから、性質が悪い。柔らかく、雪のように白い心は、誰にも染まらずにその高潔さを保ち続けている。彼女は人間ではないのではないかと、孔明が危惧するくらいに彼女という存在は奇跡にも近い。

「君ってさあ」
はあ、と溜息を吐いた孔明に少女はきょとんとした顔をしてみせた。花はわかりやすい。くるくると変わる表情は見ていてとても楽しいけれど、軍師としては致命的なようにも思える。けれど、孔明の言いたいことはそんなことじゃない。
いつの日か、孔明の小さな手を優しく握り、孔明の進む道を照らしてくれた年上の女の人は、今は孔明よりも年下だ(文法的には可笑しいけれど、これが事実だ)亮が孔明になったように彼女に変化があるかとも思ったけれど、孔明が見る限り彼女はあまり昔と変わらない。(彼女からしてみれば孔明がかわったのかもしれないが)
「相変わらず、隙だらけだよねえ」
「そんなことないですよ」
へらっと笑った少女は、どうみても隙がありすぎる。どうしてくれようか、と孔明は筆を置いて頬杖をついてみせた。それこそ昔から、彼女は隙だらけだった。天幕の中、亮が居るにもかかわらずに目の前で平気で着替えようとしたり、一緒に寝ようといって無理矢理布団の中に引っ張りこんだり。その時、思春期まっさかりだった亮としては苦しいことこのうえない環境だったと思う。当人は、あまり気が付いていなかったけれど。
「あぁ、僕って可哀想」
「はい?」
不可思議なものを見るような目で見られて孔明は肩を竦めて見せた。例え、今、孔明が何かを言っても花にはあまり伝わらないんだろう。そんなことが予想できるあたり、また悲しいというかなんというか。
「君って、本当に性質が悪い」
優しさを振りまいておいて、真綿で包んで、甘やかして。そうして、時がきたら簡単に手を離してしまうのだ。与えられなくなった毒は、体を巡り続け、そうして体をどんどんと蝕み続けていく。それが毒だとは気がつかず、体は甘い毒を求め続け、彼女を求める。
すなわち、彼女は極めて純粋な毒といえるだろう。





そうして僕は、君の虜





僕は君なしではいきていけなくなった。なんていう依存性。なんていう中毒性。
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