きみが掴んだのはこころじゃなくて僕のしんぞうでした(2)
*ジュリエット死んでます。死にネタです。苦手な方は逃げてください。


ジュリエットに99本の薔薇をあげてから、1年に1本ずつ白薔薇をあげるようになった。1年というのはヴァンパイアにとってはあっという間な気がするから忘れないようにするのが大変だ。大変だ、ということにしておく。本当は、忘れたくても忘れられないのだけれど。
「やあ、ジュリエット!元気だったかい?」
エテルナ家の裏庭。マキューシオや、ある限られた人間以外立ち入れない場所で眠っているその人を起こすように大げさな動作と大きな声でマキューシオは呟いた。
そんな大声をださなくても聞こえているわ
なんていうジュリエットの声がいまにも聞こえそうな気がする。膝をついて、地面にある墓石に触れれば、冷たさが指から上ってくる。彼女の体はあんなにも温かかったのに、今はもうマキューシオの体温を奪うだけだ。
「いつも来るのが夜でごめんね?君の居る場所、昼間は太陽が当たるからさ」
ジュリエットは人間だったから、太陽を浴びることが好きだった。そういって、墓石の場所をわざわざ日が当たる所に設置したのはマキューシオだ。だから、花もたくさん植えた。マキューシオがひとつずつ、手ずから。例外はシダくらいだろうか。色取り取りのシダはバルサザーがどうか私に≠ニ真っ赤な瞳で頼んできたから。きっと彼女も喜ぶだろうと思ったから。
「そういえば、ベルトルドにエテルナ家の家督を譲ったじゃん?何だかんだで結構サポートすることも多かったけれど、最近は一人でも大丈夫みたい」
ついにお兄ちゃん離れかなあ、寂しいなあとそう言って空を仰ぐ。空には満月が浮かんでいる。
「ビーチェもお嫁さんに行っちゃったしなあ。君にも見せたかった。メチャクチャ綺麗だったんだから。思わずこっそり泣いちゃったよ」
ふふ、とその時を思い出して笑う。
そっと、持っていた白薔薇を1本、彼女の墓石の上に置く。

「――――――ねえ、もういいかな」

ぽつりと零すようにマキューシオが告げる。色々と、限界だった。彼女のいない世界、彼女がいなくても廻っていく世界に気が狂いそうだった。それを、理性という手綱で抑えて、抑えて。愛する人との決別は日にち薬が一番だ、とはいうけれど。けれども、悲しみは深まるばかりだったのだ。忘れられるのならば、忘れたかった。けれど、彼女の声が、表情が、想い出がマキューシオの中で色あせることがなかった。
「ジュリエット、僕、頑張ったよね。疲れちゃった」
ベルトルドは大人になり、彼が家督をついだエテルナ家は続いて行くだろう。ベアトリーチェも大切な人を見つけ、新しい家族が出来た。ロミオもエスカラスと手を結び、新しい未来へと一人で…いや、他の人間たちと手を組み、着実に明るい方向へと歩んでいけるだろう。もう、想い残すことはない。
ずっと、我慢していたのだ。彼女の元へと逝くことを。道化師のように笑顔の仮面をつけて、ジュリエットの死に納得しているフリをすることにも限界がある。
「あっちに行ったら怒られるのかなあ、君のパンチって攻撃力高すぎだよね」
怖いなあ、と笑いながら胸元から銀のナイフを取り出す。当初、ジュリエットが死んだ時はロミオやベンヴォーリオがマキューシオがジュリエットのあとを追うのではないかと警戒していたが、今は違う。必死に立ち直ったフリをしたのはそのためもある。
「いろんなことをしたよねえ。演劇とか結構面白かった。君がヒロインをやったんだよ。確か、台詞、なんだっけ」
うーんと唸り、それから脳裏に思い浮かべる。それから、演じるように大げさな動作で声をあげた。銀のナイフを翳す、満月の光をうつして輝く。なんて綺麗なんだろう。
「この胸、これがお前の鞘よ!さあ、そのままにいて私を殺しておくれ!=v
ジュリエットの心内と違うのは、この胸が期待に弾むことだろう。これでジュリエットに会える、今度逢えたのならば抱き締めて、そうしてキスをして、
痛みが心臓をやく。己から溢れる血が白の薔薇を赤く染め上げる。彼女に捧げた999本目の薔薇に手を伸ばし、唇を落とした。霞む視界、風に舞い踊る花弁の中に佇む彼女が居た、そんな気がした。





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