他の誰かと同列でなければ傍にいてはいけませんか

それは昔から与えられた立ち位置だった。役者が役を与えられたらそれを放棄されることは赦されぬと同様に、俺はその役を演じていた。もう、演じる必要もないのにそれを演じようとしているのはきっとそこにあるメリットを感じているからだろう。ああ、何て、汚い。
「錫也」
信頼しきったような声で、表情で、お前は俺の名を呼ぶ。その声を聞きながら、俺は彼女が安心するように微笑んで、そうして「どうした?」と返す。月子が嬉しそうに笑んで、今日あった出来事をいくつも話していくのを聞きながら、月子の周りに居るのが自分以外であるということにじわりと真黒なものが渦巻いていくのを感じる。彼女のこととなると自分がどんどん汚れていることを思い知る。

ああ、どうして。

この距離で良いと思っていたはずだった。すぐ隣にいて、月子が何かを話したい時に話を聞いてやれて、彼女が泣いている時に彼女の頬を拭ってやれる、そんな立場でいい。“幼馴染”で良い。そう思って、いたはずなのに。
「錫也?どうしたの?」
「…あ」
ぼんやりとしていたのがわかったのか、月子が俺の顔を覗き込んだ。近くなった距離に一瞬、驚く。下手をすればキスできそうな距離。そんなことを思って、無自覚な彼女の鋼道に心配になる。きっと、彼女は何の警戒も抱いていないだろうから。警戒、していないということは男としては見られていないということだろうか…と、そこまで考えて、はたと我に帰る。それでいい、とそう思っていたのは自分だというはずなのに、どうしてそんなことを感じるのだろう。彼女の中に“幼馴染”という括りはきっといつかその他大勢になることはわかりきっている。願わくば、その他大勢にならぬように自分が彼女の恋人というポジションに収まることが出来ればいいのだけれど。

「どうしたの、錫也。考えごと?」
「うん?まあ、そんなところかな」
曖昧に返事を返せば、月子は心配そうな顔をする。
「心配することじゃないよ。ただ明日のお弁当のおかずは何にしようかなあって。…何がいい?」
「野菜炒めがいい!」
「月子はそれが好きだなあ」
ぱっと華やいだ表情に安心して、いい子いい子、と頭を撫でてやれば月子は嬉しそうに笑った。それは彼女が気を許した相手に向ける、最上級の笑顔。その笑みを見ながら思うのは、彼女の大切な人に自分がなれたらいい、という思いだけ。それだったら、きっと俺は最愛の彼女を傷つけることも躊躇わない。


 

初めてすぎて何も見えない。ということで錫也月子。それにしてもスタスカ書きにくっ!と思ってしまうのは私のスキルが足りないからでしょうか。

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