ん、そうそう、それでいいんだって。



星が好きな理由は、と聞かれた時に思いだしたのは月子のことだ。昔から、空ばかり見上げていて、こちらのことを忘れたかのように空を眺めている月子に星に嫉妬しないでもなかったけれど、その時の月子はとても綺麗だったからまあ、嫌いではない。そもそも星は決して彼女を錫也から奪わないのだから別段焦る必要はなし。月子が好きだから、好き。錫也が星の話をすれば、それはもう嬉しそうな顔をするから勉強しがいがあるし。

「ああ、もう、月子。そんなところに居たら風邪をひいてしまうよ」

柔らかな微笑みをもって、持っている毛布に入るように促せば月子はありがとう、と照れくさそうな顔をして微笑んだ。そうしてそろそろと錫也の隣へと入り込む。一人では十分、二人では少しきついソレに「ほら、もっと近くに寄らないと入りきれない」とさり気無く月子の肩を引き寄せた。それに「もう、錫也のオカン!」と笑うものの、とくに嫌がったり恥ずかしがったりする様子をみせない月子にほんの少し安心して、落胆する。どうやら、彼女の中では男扱いされていないようだと。しかしそれはある意味で“やりやすい”のかもしれない。全てを囲んでしまえばいいのだから、彼女が気がつく前に。そうすれば、彼女は自分を選ぶしかなくなる。

「あ、流れ星!」
「え、本当?」
月子の声に錫也が空を見上げれば、それはもう既に消えてしまっていた。
「残念、見られなかった。何か願い事はした?」
「……忘れちゃった」
「あはは、じゃあ今度はしないとね」
そういいながら、空を見上げる。きらきらと瞬く星は、錫也の心とは違って綺麗だ。だからこそ、こんなにも羨ましいと思うのかもしれない。

「錫也は、何かお願いごとがある?」
「うーん、そうだなあ」
ここで“お前が欲しい”なんて言ったらどうなるんだろう、とふと思った。きっと、驚いて、顔を赤くして、逃げてしまうんだろうなあ、と思い、その考えを打ち消し、笑みを作った。

「――――内緒。お前は?」
「え、じゃあ、いつもお世話になっている錫也の願いが叶いますように?」
「何で疑問系なんだよ」
「いや、だって内緒とか言うんだもん!知りたいのに!」
「なんだ、大胆だな、月子。俺の事が知りたいの?」
わざとらしく声を低くすれば月子は顔を真っ赤にさせて「ち、違うよ!」と首を振る。
「じゃあ、願いが叶ったら教えてあげる」
にこりと最上級の笑みを見せたら、何故か月子は困ったような顔をした。
「……。何だか最近、笑顔が嘘くさいよ、錫也」
「…………月子?」
「ご、ごめん!ごめんってば!!」
慌てた様子で「ほ、ほら!空みよう、空!」と星を指した月子に大げさに溜息を吐いて錫也は「仕方がないなあ」と空を見上げた。

「私、錫也と一緒に星を見るの好きだなあ」
落ち着くんだよねえ、とそういって笑った月子を見れば、月子は照れくさそうな顔をして錫也を見つめた。彼女の瞳の中に自分の姿がいっぱいになっていることに、薄暗い満足感を覚えて「それは嬉しいな」と目を細める。きっと月子は錫也がこんなことを思っているだなんて夢にも思っていないだろう。うん、そうそう、それでいいんだよ。



――――お前は、俺だけを見ていれば、それでいいんだから。



 

黒い…というよりは今回は灰色錫也?なような気がする
何だか真っ白な錫也も書いてみたいような気がしなくもないけれど、個人的には錫也は黒いのが好みなんだ…!ということで お付き合いくだされば幸いです。というか錫也好きすぎるんだけれどどうしよう

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