法螺吹きの優しさは残酷

錫也が料理を始めた大きな理由は、月子だった。夜久月子という少女は昔から食が細くて、それに重なって、元から彼女は、精神面的に弱い方だったからすぐに何かあると食べなくなった。どんなに食べろといっても食べたくない、の一点張り。ダイエットをしているわけでもないのに、酷い時には3日に1食という信じられない生活をしていた。けれど、彼女は錫也が作ったものはきちんと(それでも哉太にくらべると少ない量だったが)食べた。だからこそ、錫也は定期的に月子へと料理を作って持っていく。今日だって、月子が最近食堂で見かけなくなったからどうせ食べてないんだろうと弁当を作って持っていくとまさにその通りだったわけで。

「お前って昔から急に食が細くなるな」
弁当を少しずつ口に運んでいる月子に錫也がそういうと、月子は箸を止めた。ほんの少し考えた後に
「味がしないの」
ぽつりと呟いた。一瞬、何を言われたかがわからなくて瞬きをする。
「いつもじゃないんだけれど、時折…何を食べても味がしなくなるの。粘土とか髪を食べているような感触がするだけになって」
「月子」
「でも、不思議。錫也の作ってくれた料理は、美味しい」
にこりと笑って、月子は卵焼きをゆっくりと口に含んで「おいしい」と笑った。

ごめんね、部活があるから先に行くね。そういって錫也の前から立ち去った月子の背を見送りながら、錫也は己の胸元を掴んだ。ああ、なんで、俺は。彼女の中の特別扱い。食という人間の生活の中で最も大事な部分において、彼女の生死を支配しているのだということに対して歓喜を覚えてしまった。幼馴染としては彼女の心配をするべきだというのに、紛れもない己の中にいる男である部分が喜んでしまった。駄目だな、俺。まだまだ修行が足りない。そんなことを思いながら、残りのおかずへと箸を伸ばす。これは月子の好きなもの、これは哉太が好きなもの。そんなことを思いながら月子が何故食事を取れないかを考えてみる。

星月学園のマドンナ、紅一点。皆が揃って月子のことをそう呼ぶ。確かに彼女は容姿も整っているし、そう呼ばれても可笑しくないような気がするけれど、けれど彼女はあくまでも“普通”の女の子だ。こんな男だらけの世界に来ることがなければ、きっと普通に過ごすことが出来ていたはずで。神聖化されすぎてしまうと、それはそれで問題となる。現に、月子は追いつめられている。そうしてそれを誰にも言えずに一人で苦しんでいる。


幼馴染としては、そのストレスをどうにか発散させてやらなければいけないんだろうけれど、正直なところそれが原因で彼女が錫也に依存してくれるのならばそのままでもいいかなあ、なんて思うのも事実で。はあ、俺って最低。そんなことを思いながら真っ青な空を見上げた。




 

何だか月子の設定もだんだん狂いはじめてきたような気がしてならない今日この頃。 っていうかさー、まじでさー、ありえんしー(笑)みたいなかんじのような気がしないでもない。
というより錫也好きな方が意外と多くて私は嬉しい。
いいですよね、錫也!コメントありがとうございました(`・ω・´)シャキ‐ン

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