彼は其れを愛だと云う

人当たり穏やかで、そうして料理上手な夜久の幼馴染。宮地にとっての東月錫也という男の印象はそれくらいだろうか。あとは、食堂で働いているおばちゃんと仲が良い、ということくらい。ある意味で食堂の常連である宮地も食堂のおばちゃんから東月の噂はよく聞いていた。ただ、たがいに接点があるかと問われた場合には首を捻ることしかできない。そもそも会話をするときも大体は夜久を通すし(夜久に弁当を渡してくれ、だとか夜久はまだ部活をやっているかなど)そもそも学科自体も違うのだ。接点の持ちようもない。(ただ時折、学年が同じであるからかオリエンテーションなどで月子とともに居る姿は見るが)
まあ、宮地にとっての東月錫也という存在はそれくらいのものだ。何故急にそんなことを思い出したかと言えば
「あ、宮地君」
御察しの通り、弓道場の外で宮地と件の彼と出会ったからである。

「……東月か」
「今、部活終わったの?月子は…」
「ああ、夜久なら星月先生が呼んでいるからと早めに帰った」
「本当?っていうことは…入れ違いになったのか」
そういうと東月は「教えてくれてありがとう、宮地君」と困ったように笑んだ。
「もしかして、校舎の方に行く?それなら一緒に行かない?」
「別に構わないが…迎えに行くのか?」
「うん、少し用事があるからね」
その言葉にそうか、と返して歩き始める。

「弓道部は、最近忙しいの?」
「まあ、それなりには…インターハイが間近に迫っているからな」
「そうなんだ。そういえば、月子が新しい部員が入ったって話していたよ。とても頼りがいがあるとか言っていたけれど」
「む…木ノ瀬のことか?……まあ、確かに最初は夜久の弓に惚れただのなんだのと心配させるような事ばかり言っていたが最近はまともに…」
「――――――――へぇ」

何故だろう、産毛が総立ちした。ぎょっとして東月の方を見ると、彼は元の穏やかな笑みを浮かべて…いると思ったのは一瞬だけだったらしい。何だか色々とはみ出ている。彼はこんな男だっただろうか。宮地は物珍しさから何度か瞬きを繰り返す。宮地の印象としては東月錫也というのはいつでも穏やかな笑みを浮かべていて、何かに対して怒りを露わにするような男ではなかったはずなのだが。もしかしなくとも、それは夜久に対してだけだったのかもしれない。どうやら実際の彼は、子供っぽいらしい。

「ん、何?人の顔をじっとみて。何かついている?」
「いや、お前も俺と同い年だったんだなと思ってな」
「……宮地君に言われると心外なんだけどな……」
「それはどういう意味だ」
「特に意味はないけれど…あ、月子だ」

途端に先程までのほんの少し不機嫌そうな表情を綺麗に隠し、東月は綺麗な笑みを浮かべた。それは宮地の知っていたいつもの東月の姿。あぁ、そういえば彼とじっくりと一対一で話したのは今日が初めてかもしれない、なんてことを思いながら宮地はその背を見送った。
「あ、そうだ。宮地君」
そういって思いだしたように

「あとで、その“木ノ瀬くん”について詳しく教えてくれる?」
にっこり。
そんな形容詞がつく笑顔を浮かべてそう言った東月に宮地は乾いた笑みを浮かべた。まあ、その後で本当に木ノ瀬について根掘り葉掘りきかれて宮地が辟易としたのはまた別の話。

 

蠍座のあなた!今日はアンラッキーDAY☆なんだか不幸がこちらから寄ってくるわ!ラッキーカラーは緑! というかんじのことを朝の星座占いで言っていたな、とか遠い目をする宮地を想像したら何だか面白くなった
ということで宮地の受難でした。 そういえば前、友達に「宮地と錫也って双子なの?」とか真顔で聞かれたんだけれどどう反応すればいいのか本気で悩んだ今日この頃。

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