錯乱イヴ

「もう!またこんなに汚して!」
昨日片付けたばかりなのに、と月子の声が保健室に響く。それに肩をすくめて、星月はソファに腰を下ろした。確か昨日もこんな会話をしなかったっけな、とそんなことに気がついて星月は喉奥で笑う。
「散らかした訳じゃないぞ。それは定位置においてあるんだ」
「そんな理論通用するものですか!」
「はいはい」
 眠い、と言いながら欠伸をして星月が目を瞑れば、月子が「もう!」と言いながら物を整理する音が聞こえた。
「職員会議があるから、2時間経ったら起こしてくれ」
「え」
「おやすみ」
「……仕方がないなあ」
ぶつぶつと文句はいいながらも何だかんだと月子は片付けをしてくれる。
夜久月子という少女は根がまじめで、そうしてとても優しい。寝てしまった(と月子は思って居る)星月を気遣うように出来るだけ物音をさせないようにしたり
(こんな誰にでも優しいからこそ、男は勘違いするんだろうな)
まるで自分だけがトクベツ扱いされているような、そんな気がしてくるのだから不思議なものだ。月子の作る空間は、いつだって居心地が良い。そんなことを考えているうちに、眠りへと落ちていった。

ふ、と目が覚ますと夕日が保健室の窓から差し込んでいた。寝過ぎた!と、慌てて身体を起こせば
「先生?」
月子が顔をあげた。まだ居たのか、と言おうとしてそういえば自分が月子に自分を起こすようにと頼んだのを思い出した。時計を見ると、まだ職員会議までは時間がある。安堵して、ほっと息をついた。
「どうしたんですか?」
「いや」
 月子の心配そうな顔に「なんでもない」と首を振った星月はふいに、違和感に気がついた。いつから、自分は他人が居ても眠れるようになったんだろうか、と。星月はこう見えて、警戒心が強い。誰か見知らぬ輩が居るときは、いくら眠くても眠れない。それだというのに、月子と居るときはすぐに眠ってしまっただなんて。それは、星月が月子に心を許しているから、なのだろうか。
考え込んだ星月に「へんなの」と月子はそういうとじっと星月の顔を見た。
「まだ、眠そうですね」
「眠い…から、不味いお茶を頼む」
「はいはい」
不味い不味い言うのならば飲まなくてもいいのに、と文句を言って背を向けた月子を見ながら、星月はふと今の会話がまるで夫婦のようだなと思って居心地の悪さを感じた。
夜久といるとどうにも普段のペースでいられなくなる。けれどそれがほんの少し心地よいような、そんな気もして。

きっと、まだ寝ぼけているのだろうと理屈をつけて星月は目を瞑った。



 

てんびん座は抜け目ない。というかよくよく考えれば犬飼くんもてんびん座っていう。 てんびん座のあの安定感がものっそい好きだ。調和を重んじる感じとか。

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