どうか僕の愛によって束縛しておくれ

コレの続き。


 東月錫也。
その名前を聞いて不知火がまず思い出す事は彼自身の顔ではなく、月子の顔だ。不知火にとってはある意味、因縁のある相手でもあり、そうして憎めない相手でもある。嫌われる要因はいくつかあって、それらはどうしようもないことで弁解しようがない。けれど、実際に嫌いです、といわんばかりの態度でこられるとある意味キツいというかなんというか。むしろあそこまでハッキリと態度に示してくれると恨みに思うどころか清々しい。こそこそと後ろで陰口をたたかれるよりはよっぽど気分がいい。……とはいっても、実際にされると結構凹むんだが。
いやあ、お前って本当に俺が嫌いなんだなーと笑顔で寄りたくなるというか。むしろいっそのこと、近付いてやろうかとすら思うのはよくないかもしれない。こういいながらも、不知火は別段錫也が嫌いではない。己のテリトリーに過敏で、その領域を侵すものにたいしては基本、敵意を向ける。実にわかりやすい。そういう相手と上手く付き合うためには、近寄らなければいいだけの話だ。そのわかりやすさは、好感すら覚えるのだから。何故、そんな話を思い出したのかというと、たまたま不知火が一人の時に彼が「すいません、月子いますか?」と扉を開けたことに始まる。
「「……」」
お互いに顔を見合わせ、気まずい沈黙が生徒会に広がる。なんともいえない空気にこれはいかん、と思いながら不知火は口を開く。
「……。月子は今、居ないぞ」
「……。そうでしょうね。見ればわかります」
「……そうか」
「えぇ」
そこで、再び沈黙。え、何。どうすればいいワケ?っていうかお前はこの後なにを望んでいるんだよ!といいたくなる空気に不知火はひくりと顔を引き攣らせた。どうしろっていうんだよ、本当に。不知火はエスパーでもなんでもないのだから、何か用があるのならば口に出してくれなければわからない。あー、と呻きながら頭をかいて、唇を開く。
「なに、俺に何か、用でもあるわけ?」
「……」
錫也はほんの少しだけ考えるように目を伏せ、不知火の座っている席へと足を進めた。なんだ、と咄嗟に腰を浮かせかけた不知火の前に白い箱が置かれる。
「―――――――は?」
「差し入れです」
「あ、そういう。月子に渡せってことだよな?」
「まあ、そうしてくれてもいいですが、青空に渡した方が身のためだと思いますよ」
「何だよ、それ」
「月子のあのお茶を飲みたいのならば止めませんけれど」
にこりと笑って言われた言葉に、あの本来の苦味を100倍にしたかのような味を思い出して不知火は引き攣った笑みを浮かべた。そんなにイイ笑顔で言う事だろうか?というか、俺に何を答えてほしいというのだろうか、これは。
「……嫌いじゃないけれどな」
「貴方のそう言う所、俺、大っきらいです」
「お前の場合何をいってもそうだろうが」
「すいません」
「全く誠意の籠ってない謝罪をどうも」
はあ、と溜息をついて不知火は机の上にのった箱を見た。
「それ、月子のためが9割で残りの1割は会長のために作ったんですよ」
「は?」
「だからちゃんと食べてくださいね」
「……中身は?」
錫也は不知火の問いには何も答えず、笑って生徒会室を退室した。それから30分後、青空の淹れた紅茶の横に並ぶイチゴのショートケーキに(あぁ、成程)と不知火は心の中で顔を引き攣らせた。要するに甘いモノが苦手な俺に対する嫌がらせね、と逃げるように紅茶へと手を伸ばした。何故だろう。月子のとは違って美味しいはずのそれが、ほんの少しだけ苦く感じたような気がした。


 

どうすれば仲が良くなるかーなんか知らないし、別段仲が悪くてもいいと思う。けれど、まあ、なんだ。なんていうか、アレだよな。あれっていえば、アレだよ。あー、う−、まあ、アレなわけで。
とかいうわけのわからない説明をしてま、いっか。ってなりそうな会長が嫌いじゃない。っていうか気にしてないといいつつ気にしている会長が面白いっていうか、この二人は仲が悪ければいいと思います。

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