満たすことから始めよう

宇宙の中で主に自然科学で問題にしている特定の部分を系≠ニいう。
概念的には、ひとつの箱を考えるのがもっとも簡単なのかもしれない。けれど、系というものは形はないのである。容器につめられた気体の集合の場合もあれば、特定の溶液、力を受けた、与えた物体または細胞内、機関内などの場合もある。系が一つ定義されると、宇宙の残りの部分は外界と呼ばれる。系には外界との関係から開いた系、閉じた系、孤立系の3つに分類される。
開いた系とは、外界と、質量とエネルギーの両方を交換する系である。閉じた系とは、外界と質量の交換しないが、エネルギーの交換可能な系である。孤立系とは、外界と質量もエネルギーも交換できない系である。そこにエンタルピーやらエントロピーが関わり合い……。
そんな話を延々と教科書とにらめっこしながら教師があたかもわかっています≠ニいうような顔をして語る。高校のカリキュラムとしては幾分かむずかしめの内容は、けれども星のことを研究する上では必要な知識だったりする。とはいっても天文科に必要かどうかは錫也はあまりわからないけれど。

昼休みを挟んだ5時間目の午後の授業。

クラスを見回す限り、クラスの三分の一は夢の中へと旅立っているようだった。
哉太もその中の一人で、見ているこちらが思わず笑ってしまうくらいに幸せそうな寝顔をみせている。まあ、それもしかたがないかな、なんてことを想いながら錫也も欠伸を噛み 殺す。正直、面白いとはいいがたい。極めてしまえば面白いのかもしれないだろうが。己の恋人を見てみると、彼女は根が真面目であるため、 懸命に聞こうと努力…はしていた。
詳しく状況を説明すると、こくりこくりと船をこぎ、身体のバランスを崩してはっとして慌てて黒板の文字をノートに書き写して、そうして再び睡魔に誘われ…の繰り返し。まあ、努力はみとめるけれど。錫也は目を細めて月子を眺めた。正直、授業を聞くよりも月子を観察するほうがよほど楽しいようなそんな気がする。

なんだか割とストーカーのような発想な気がして錫也は複雑な気分になった。けれど、なんだかんだでこの立ち位置は昔から変わっていない。そうなると、錫也は月子のストーカーなのだろうか。いやいやさすがに、まさか。流石に後をおいかけたり付き纏ったりはけしてしていない…はずである。多分。
多少幼馴染の範疇を越えているんじゃないかとか周りに言われていることは全てスル―することにして錫也はひとり納得したように頷いた。そもそも月子が可愛すぎるのはいけないのだ。それに、なんだかんだといって月子は錫也の恋人という立ち位置であるのだから多少は緩くなるだろう…多分。

「えー、だからこの方程式であれば、ギブスのエネルギーが…」

能天気な教師の声を聞きながら、月子の姿を目の端にいれて錫也は微笑んだ。恋人。実に良い響きだと思う。何をしたってある程度は恋人だから≠ニいう理由で赦される。免罪符としてはうってつけである。月子にとっては錫也が最初の恋人だから、いわば毎日がエイプリールフール。多少、ハメを外そうとも心配はない。さて、これからどうしようか。



 

きっと錫也は「恋人」という単語に一人でにやつく性質だと思います。段々と錫也が壊れてきていて私は悲しくなってきました。どうしよう、でも錫也月子大好きだよ!本当だよ!

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