君のやさしさの孵化





人当たりがいい、と一般的に言われる人間こそ中身が壊滅的であることの方が多いというのは錫也の持論である。正直な話、一見、欠点などなにもないかのように見える人間こそが一番危ういだろう。
何故、断言出来るのかといえばそれが錫也自身にあてはまるからである。結局、人間と言うものは自分の事以外理解できない。自分のことでさえも理解できないことが多いのだから、他人の事なんてもっと知ったことじゃないだろう。昔から【人当たりが良く、適度にいい子】であることを演じてきた。演じてきた、というのは正しいかどうかはわからない。もしかしたらそれは錫也自身の性格であるかもしれない。
だがしかし、計算をしていないといえばそうではない。結局、真面目にやっていたほうが楽で、エネルギーを使わない。だからこそ結果的に【いい子】と呼ばれる何かになっていたのかもしれない。詳しいことは良く分からないし、知りたいとも思わないが、可愛げがないことは確かだろう。
もしも、自分がもう一人いたら。きっと錫也は近付かないだろう。何を考えているかわかりすぎて、そうしてわからなすぎるから。もしかしたら、憎しみという感情すら覚えるかもしれなかった。そう考えると、やはり錫也はいいこ≠ナはないのだろう。

まあ、そんな考えは相変わらずではあるが、けれども随分と落ち着いた、とは思う。月子と結婚して、そうして彼女が名実とともに自分のものとなってから、精心的には落ち着いた。家族となってしまえば、錫也とは違って本物のいい子である彼女は錫也から逃げられない。いつか彼女がどこかへいってしまうのではないかと恐れていたあの頃は、不安定だった。どんなに月子が錫也のことを好きだと、愛しているのだといってもどこか仄暗い欲望は胸にあった。日に日に大きくなっていく感情をどうすればいいかがわからなくて。

「錫也?」
名前を呼ばれた科と思うと顔を覗きこまれて錫也は目を丸くした。随分と考えに没頭していたらしい。先程まで流れていたはずの映画はいつの間にかエンドロールが流れていた。
「……あ、あぁ、悪い」
「何か考えごとしてたの?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど」
「そう?紅茶ここに置くね」
ことん、とマグカップを透明な机へと置く。昔はそれこそ紅茶すら淹れられなかった彼女ではあるが、最近は紅茶くらいはいれられれるようになってきた。……昔は、どうだっただろう。確か、彼女がたまたままぐれで美味しいものを作ってきたことがあった。その時は褒めた気がする。けれども、その半面で不安だった。どうすればいいかわからずに、まるで自分の立ち位置を失ったかのようなそんな気分を味わった覚えがある。……もっとも、彼女が上手く作れたのはそれ一度きりだったのだけれど。マグカップに手を伸ばし、口に運ぶ。ほんのすこし苦味を感じるが、嫌いじゃない。
「ありがとう、美味しいよ」
「お粗末様です?」
嬉しそうにそうはにかんだ彼女の髪を撫でる。さらさらと指触りのいい髪を指で遊んでいれば擽ったかったのか彼女は身じろいだ。けれども彼女は逃げることをしない。錫也は笑った。
「錫也?何を笑っているの?」
「あぁ、いいや。……ただ、幸せだな、って思っただけだよ」
私も、とそういった月子に錫也は目を細めた。


彼女が鳥であるならば、きっと錫也は鳥籠だ。



 

錫也ァアアア!俺ダァアアアア!!って毎回叫びたくなる私が居る。どうも、私です。錫月アンソロ最後でもう更新しないとか言っていたんですが、何かコメント戴いたら久しぶりに書きたくなちゃった☆ということでお久しぶりです…。だってそもそも誰が見てるんだよっていうくらい自己満足なサイトに優しすぎる対応されるとさー書かないとって思うよね?思わない?思わないか…そうか……。
ということで。結婚してからのお話です。錫也さん丸くなったね?っていうお話です。本当に丸くなったのかどうかはよくわかりませんね?というか、うちのサイトは下から上に読んでいただくとあぁ、成程≠ニ思う事も多いかもしれません。アフタースプリング発売するからそれまでに錫月の甘いの書きたいなとは思っている。

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