*「いちばんは君のもの」の後の話です。
*砂月と那月は双子です。さっちゃんは、兄です。
*砂月と春歌ちゃんは結婚してるよ!





今日と、その次の日、多忙な砂月にしては珍しくオフだった。そうして更に珍しいことにその次の日は春歌も休みが重なっていた。「まあ、たまには甘やかしてやるよ」とそう言った砂月にキラキラとした目で「本当ですか!」とウキウキとした様子で仕事に出かけていったのは今日の朝7時。そうして帰ってきたのは午後10時。ついでに、春歌は、一人で帰ってくるのが出来たのが不思議なほどに、酔っぱらっていた。そんな様子の春歌に米神を抑えた砂月を、誰が咎めようものか。


「砂月くんだーいすきですー」
「……あぁ、そうか。はいはい」
リビングにて、ベロベロに酔っぱらっている春歌に米神を抑えながら、けれども無碍にすることも出来ずに砂月はべたべたと纏わりついてくる春歌を適当にあしらった。春歌の苗字が七海から四ノ宮、に変わってから随分と時間が経ったような気がする。昔から砂月に対してことあるごとに「だいすきです」と言い放つ春歌ではあるが、ここ最近ではあまり言わなくなった。まあ、別にそれに不満を抱いていたわけではない。大事なことだからもう一度言うが、別に砂月は春歌に「大好き」と言われようが言われまいが不満には思わない。
「……」
何故だろう。否定するはずで繰り返したというのに、何故か余計に信憑性がなくなったような気がしないでもない。
「さーつーきーくーん」
「あぁもう何だよ。鬱陶しい」
鬱陶しい、と酷いことを言っているはずなのに春歌はへにゃりと嬉しそうに笑った。
「……なんだよ」
「砂月くんが傍に居るので自然と笑顔になっちゃうんですよぉ」
「あぁ、そうかい。そりゃあ、良かったな」
寝転がりながら、きゅう、と砂月の腰に抱きついてくる春歌の頭を撫でれば春歌はふふふ、と嬉しそうに目を細めた。……。畜生、この小動物め。しかし、いい加減にこのままではいられないことにハタと気がついて、砂月は水差しへと手を伸ばす。
「おい、春歌」
「はーい?」
「水、飲めよ」
「やーですー」
ふるふると首を振る春歌に砂月は眉を寄せる。春歌はあまり酒には強くない。そうして、二日酔いも酷い。はるか昔、二日酔いで散々苦しんだというのにこの女は覚えていないのかと溜息を吐く。
「おい、明日、二日酔いで辛くなるぞ」
「うぅ、それもイヤ、です」
「……お前は何で酒を飲むとそう、子供っぽくなるんだよ」
あと笑い上戸になるのはどういった主旨なんだろう。というか、春歌がこんな風に酔った姿を他の男は知っているのだろうか。あ、なんか腹立ってきた。むに、と春歌の頬を引っ張れば、面白いほどに伸びた。
「ひゃふひふん、ひはいれふー」
「何言ってんのかわかんねぇな」
鼻でわらって手を離せば、春歌の頬が赤くなっていたからほんの少しだけ反省した。もう少し力加減を考えるか。春歌の頬をさすっていれば、その仕草が気持ちよかったのか、春歌は目を細める。
「さつきくんはー、おさけのんでも、かわらないですよねぇ」
流石です、とキラキラとした目で見られて、うっかり言葉を失った。そんな目でそんな風に小首を傾げるな、小動物め!と心の中で叫んで、目を逸らす。
「……二人して酔っ払いになったら誰がお前のことを介抱するんだよ」
「さつきくんは、せわやきですもんねー」
「お前なあ」
うふふ、と笑いながら春歌は再び砂月の腰に抱きついた。そうして、先程よりも強くぎゅう、と抱き締める。甘えられている、のだろうか。多分、甘えられているんだと、思う。長年、一緒に居るがなんとなくわかるようになってきたのは夫婦だからなんだろうか。なんとなく、気恥ずかしくなって、思わず渋面をつくってしまう。さっちゃんは照れ屋なんですから≠ニ弟がどこかで笑ったような気がした。
「……おい」
「はあい、なんですか、ダーリン」
「……。お前、本当に酔いすぎだ、ハニー」
「よってなーいですよー」
「ベロベロじゃねえか」
溜息を吐いて、仕方ねえなあと水を飲ますことを諦めた。コップを机の端へと置く。そうして、春歌の手を外し(駄々をこねたがもう俺は知らん)無理矢理抱きあげる。
「わあ、たかいですー」
きゃいきゃいと騒ぐ春歌に「はいはい」と言いながら、ベッドルームへと運んでやる。あぁもう、全く、何て手が掛かる。お前は子供か、本当に。妙に疲れたようなそんな気がして、こいつをどうにかしたらリビングでコーヒーでも飲むか、と思いながらそっと彼女をベッドに横たえ、ほっとした所で思い切り腕を引っ張られた。油断していたから、完璧にバランスを崩してベッドへと倒れる。
「何しやがる、酔っ払いっ!」
咄嗟に彼女の体を潰さないようにと腕で体を支えた自分の運動神経に感謝だ。体格差がかなりあるのに砂月が上に乗っかったらどうなったことやら。怒った砂月に、春歌はへらりと笑った。
「さつきくんがわるいんですよぉー」
「何でだよっ!」
「だって、今日、頑張ったらいっぱいご褒美、くれるって言ったでしょう?」
「春歌、お前なあ……」
「―――――甘やかして、ダーリン?」
砂月の首裏に腕を回して、春歌はちゅ、と触れるだけの口付をひとつ。それから砂月の目を覗き込んで、悪戯っぽく首を傾げてみせた。その瞳は、紛れもなく正気で。酔ってねえじゃねぇか、お前!と叫ぶかわりに、唇を塞いだ。まあ、要するに、砂月も春歌にメロメロというわけで(ぜってぇ、言ってやんねえ)



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