僕の好きになった人はね、皆どこかへ行ってしまうんだ。それはとっても寂しくて、悲しくて、僕は悲しくて悲しくてたまらなかった。ヴィオラの先生のこともね、大好きだったんだよ。僕とさっちゃんの曲を内緒だよって教えた時、先生が自分の作った曲として発表してしまったことは確かにとても悲しかった。

けれど、そんなことはどうでもよかったんだ。確かに悲しいけれど、先生がどこかに行っちゃうくらいなら僕はあの曲を先生にあげたよ。それで先生がずっと僕の傍に居てくれるって言うのなら僕は先生のために曲を作り続けたと思う。でもね、先生はいなくなっちゃたんだ。友達もそう。僕の友達はすぐにどこかにいっちゃうんだ。
僕が好きになったら、皆壊れちゃうんだよ。大事だよってぎゅうって抱き締めたらそうしたら皆……。だからね、気がついたんだ。どこかへ行かなくしちゃえばいいんだって。人間には足があるでしょう?その足がなければどこにもいけないってそう思わない?

……あぁ、そろそろかな。うん?あぁ、違うよ。今日は何も仕事をいれてなんかないですよ。だって今日は特別な日ですから。君とずぅっと一緒にいられる初めの日。ふふ、ね、ハルちゃん。好き、大好き。本当に可愛い。可愛くて、可愛くて食べちゃいたいくらい。あぁ、恥ずかしがる様子もとぉっても可愛い……。ん、どうしたの?あぁ、体がだるい?うん、そっか。それは大変だね。困ったな、でも必要なことだからほんの少しだけ我慢して。大丈夫だよ。すぐに良くなるから。え?あぁ、そう。うん、少しだけ薬を混ぜたんだ。痛み止めみたいなものかな。人間の痛覚だとか感覚全般を鈍くさせるもの。麻酔みたいなのを考えてくれればいいんじゃないかな。でも意識ははっきりしているでしょう?ちゃんと意思疎通をはかれるし、会話だって出来る。だって会話ができなくなったら寂しいから。それにこれは無味無臭だからね。紅茶にいれても何も変な味がしなかったでしょう?ちゃぁんと前もって調べたから心配しなくても大丈夫だよ。……さてと、っと。
え、このケーキナイフをどうするかって?ふふ、どうすると思う?大丈夫。全然、痛くなんかないよ。そのために薬を飲んでもらったんだから。大丈夫、そんなに怯えないで。あぁ、じゃあ少しずつ馴していこうか。君の緊張が取れるように僕の腕の中でお話しよう。
どうしたの?悲しいの?……それとも嬉しい?ずっと僕とこれから一緒にいられるものね。僕もすっごく嬉しいよ、大好きだよ、ハルちゃん。ね、僕の名前を呼んで、僕の傍に居るってそう言って、愛を囁いて。照れ屋の君はいつもとっても可愛いけれど、素直な君もとってもかわいいに違いないから。……これから?そうだな、どうしようか。僕にもわからないって言ったら君はどうする?あぁ、そうだ。これを見て。綺麗な瓶でしょ?この中にはいっている白い粉をさっき君の紅茶のカップに混ぜたんだ。この薬はね、とっても強い薬で依存性があるんだ。ほんの少しでも量を間違えたら死んじゃうくらいにキケンな薬。口に含むだけで口内の粘膜からも吸収されるから、日本の法律では毒薬に指定されているんだよ。ね、これを口に含んで君にキスをしたらどうなると思う?息が出来ないくらいに深く、深く。そうして二人で違う世界にいけたらとっても素敵だと、きっと君は思ってくれますよね、





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