おや、どうかしましたか。そんな顔をして。あぁ、部屋から出られないって?不思議ですか?種明かしをしてしまえば簡単なことなんです。ただ単に、私の部屋は内側からも鍵をかけることができるのですよ。自分の部屋はそんな構造じゃない?まあ、そうでしょうね。だってわざわざそういう風に改装したんですから。君に気がつかれないようにこっそりと、ね。だから君が知らないのも仕方がないことなんですよ。ふふ、驚きました?何も言わなくてもわかりますよ、君のことならね。けれど、正直な話、自分でも驚いたんですよ、いつの間にこんなにも私は狡猾な人間になったんでしょうね。君の事となると私はとても変化しやすいみたいですね。

始まりはなんだったんでしょう。前々からキミに対してはこうしたいと思っていたんですが、実行に至るまでの切欠があったような……あぁ、そうだ。音也。アレに曲を作るという話があったでしょう?君は嬉しそうに私の所に来ては音也の話ばかりしていました。よくよく考えればあれが切欠なのかもしれませんね。恰好がつかないから必死で平気そうなふりをしていましたがあの時は嫉妬の炎で身を焼かれるのではないかとすら思いましたよ。ふふ、別に謝らなくても良いですよ?確かにあれは切欠ではありますが、例えあの事件がなくたっていつかは私はこうしたと思いますしね。先か後か。ただそれだけの話です。君を部屋に閉じ込めて、そうして外に出さないようにする。それは私にとっての夢でもあったんです。私がいなければ君が存在できない。そんな関係に私は憧れていたんですよ。

お互いがお互いに唯一無二の存在。

それはとても素敵だと思いませんか?君も素敵だとそう言ってくれればいいんですが。いわば此処は二人だけの愛の巣とでもいうんでしょうか。ここには私と君以外の誰も入りません。ふふ、少しロマンチックすぎましたか?……?どうしてそんな怯えたような顔をして私を見るのですか?可笑しい?何がですか?私が、でしょうか。好きな人と共にずっと過ごしていたいと思うのは普通の事だとはおもいませんか?愛しい人の瞳が自分以外を映してほしくないとそう望むのはいけないことなんでしょうか?

……違う?

あぁ、なんだ。君はそう思わないんですね。君が私に自分以外の誰かを見るなと望むのならば私の目を抉ってくれても構わないと思ったのですが。最期に君の姿を映しながら、というのは案外倒錯的ではあるかな、と思ったのですが流石にそれは有り得ませんか?君は優しいですからね。

しかしながら、残念なことに私は君ほどに優しくはなれないですし、自分勝手な性格のようですね。例え君が望まなくても、私が望んでいるのです。だからこそ、君をこの部屋から出すなんてこと、一度だって考えたことなんてないんですよ。どうやって誘いこむかを考えこそすれどもね。酷いと罵ってくれても構いませんよ。怒る君はきっと可愛らしい。周りがすぐに気がつく?あぁ、それは有り得ませんね。君は私という人間をよく知っているでしょう?完璧主義で、努力家。その評価に違わぬように此処に至る道筋を全てを計算しているんです。

君はね、事実上今の時間、飛行機≠ノ乗って海外へといっている最中なんです。そうして運悪く、その飛行機は事故にあう。行方不明者は一人。……ね、誰も君が此処に居るなんて思いつくはずがないんですよ。ふふ、完璧でしょう?周りを全て囲いこんでも、どんなに手間をかけたって私は君を手に入れたい。異常?あぁ、そうかもしれませんね。きっと私は君のせいで狂ってしまったんだと思います。恋の病、と人はいうそうですよ。ただ君だけに、君だけを想い続けて死ねるというのならばとても甘美な死でしょうがね。あぁ、愛していますよ春歌。例え君に嫌われたって、憎まれたって、その感情が私に向けられているというのならば全てが愛しいと思えるくらいに。





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